Siva

2012.05.19 095.ただ、愛しい NBA青峰×社会人黒子のパラレル


「ちょ…ッ、こら、青峰くん!」

どさりと背中からベッドに投げ出されて、黒子は圧し掛かってくる青峰を必死で押しやった。
しかし社会人になって現役を遠ざかった黒子と、大学での交換留学を経てNBAに進んだ青峰とでは、体格以上に歴前な力の差が存在する。
それでも構わず手を突っ張って気が付くのは、その手を置く胸が以前より厚くなったこと。背も、少しだけ高くなったこと。
高校を卒業する頃にはもう完成された身体を手に入れていたと思ったのだが、あれより上があったのかと驚かされた。
ほんの一瞬気を取られただけなのに、青峰には十分だったらしい。
荒々しく唇を塞がれるまで、そう時間は要らなかった。


プロ入り二年目、弱冠24歳にして北米を制しMVPを獲得した青峰が一時帰国するとあって、母国のマスコミ陣は大いに沸いた。
オフシーズンにおける日本での滞在期間が明らかにされていないにも関わらず、帰国前から彼の代理人の元には取材や番組出演の申し込みが媒体問わず殺到したらしい。
スケジュールは一週間先まで早々と埋められたが、本人の「面倒臭ぇ」の一言でそれ以上のオファーはあっさりと打ち切られたのだから、チームにおける彼の待遇の程が窺える。
良くも悪くも自分に正直で我儘なところは、年齢を重ねた今でも相変わらずらしい。
昼の便でボストンから帰国した後、そのスケジュール一発目となる凱旋祝賀パーティーの開かれたホテルである。
最上階に設けられたインペリアル・スイートは、その名に相応しく贅を凝らした造りだ。
本人がはじめ「知人の部屋に泊まる」と言ったのを、スター選手にははったりも欠かせないのだと一蹴したのが彼のマネジメントを一手に引き受ける代理人である。
名をバリー・バレットと言った。
青峰の才能に惚れ込んで専属契約を交わしたバリーは、青峰の言う「知人」が世間には秘密の「恋人」であるのを知っていた。
これだけマスコミに騒がれるなかで、――いくら彼の恋人の影が薄いとは言っても――自分の監視下を離れてしまっては、彼のプライベートを守るのは難しい。
ごねる青峰を言い包め、彼の中学時代の同窓であるキセキの世代を全員招待することで、黒子からマスコミの目を遠ざけたのは他でもないバリーだ。
彼の同窓たちは、いまなおそれぞれに日本を騒がせている存在である。言い方は悪いが、目くらましにはちょうど良かった。
青峰がはじめから乗り気でなかったパーティーでどうにか最後まで主役を務めさせた後、今度は黒子を言い包めて部屋に放り込み、
更にはマスコミをシャットアウトして青峰を部屋まで案内したのだから、バリーの有能さは必然的に示されよう。
いつも当たり前にその恩恵を受けている青峰だけが「当然だ」と言わんばかりの態度だったが。



「ん…ッ、あお、……っ」
「テツ」

黒子の抵抗を奪った後で、青峰は性急に黒子のネクタイを引き抜いた。
落ち着いた色のジャケットを剥ぎ取り、惜しげもなく床に放る。
毛足の長い絨毯に落ちたそれはわずかとも音を立てなかったが、黒子の恨めしげな視線がそれを追った。
床の上には、部屋に入るなり青峰が投げ捨てたネクタイと、彼がパーティーで受け取った祝いの花束と、それからいま落ちたばかりの黒子のジャケットが点々としている。

「ンだよ、心配しなくてもスーツ一式新しいの買ってやるって」
「そういうことじゃ、ありませ…ッ、ァ、」
「いいから余計なこと気にしてんな」

ぎゅう、とシャツの上から乳首を抓られて黒子の肩がびくりと跳ねた。
昔から嫌になるくらい黒子を甘やかしてきたくせに、ベッドの上だけは意地の悪さが勝る青峰である。
おかげで、少し痛いくらいの愛撫の方が感じるように仕込まれてしまった。
ゆるゆるとした優しいものでは、黒子の方がじれったくて先をねだってしまうのだ。
自分のつけた癖が何一つ消えていないことに、青峰が安堵と、それ以上により強い征服欲を募らせていることに黒子は気づけない。

NBAに所属してからの二年間、学生時代の留学とは違って、青峰と黒子が顔を合わせた回数は片手で足りる。
プロ入り一年目にしてスター選手に駆け上がった彼は、シーズン中はもちろんオフシーズンまで熱狂的なファンに追いかけられて休むどころではなかったし、
社会人一年目の黒子もまた学生時代のぬるま湯を抜けて、社会の波に揉まれていたのだから当然と言えば当然だ。
MVPを獲得した今年はより熱が増すばかりだったのだが、「凱旋」という取って付けたような理由でもって青峰は日本に帰国した。
黒子をアメリカに呼んでも良かったのだが、向こうではパパラッチが始終スクープを狙っている。
青峰の帰国に合わせて幾人かのパパラッチも来日しているのだが、さすがに母国ほどの自由はきかないだろう。あちらにいるよりよほど安心できた。
いくらスターダムに伸し上がったとはいえ、青峰はまだ若輩だ。スクープを握り潰せるだけの人脈は築けていない。
自分のことはどう騒がれようと知ったことではないが、黒子は違う。彼には彼の仕事があるし、生活だってある。
よほど攫ってしまいたいと願うけれど、今の青峰にはまだ黒子を守りきれるだけの力がない。
歯痒さばかりが募るけれど、望むだけの力を手に入れるのに、そう時間はかからないだろう自信もあった。
それよりも案外強情っ張りの恋人をどう口説き落としてアメリカに連れ去るか、その方がよほど難題である。



「テツ、」
「んん…ッ」

シャツの上から歯を立て、舌でねぶって刺激する。つんととがった乳首を転がしながら、スラックスのベルトを引き抜いた。
相変わらず、腰が細い。男性として決して背が低いわけではない黒子だが、青峰と比べればその差は明らかだ。
骨格自体が華奢なのか、青峰の大きな手は簡単に黒子の腰を掴んでしまう。
スラックスの中にしまわれたシャツを引き出し、恥ずかしがって身を捩るのを押さえ込んで、下穿きごとスラックスを引き抜いた。
途端に身をまるめて隠そうとするのを、脚の間に自らの腰を割り入れて許さない。

「見せろ。どんだけぶりにおまえ抱くと思ってんだ」
「だ…ッ、青峰くんッ」

直接的な言葉にはどうも慣れないままらしい。
頬を赤らめてきっと睨んでくる様は、本人ばかりは威嚇しているつもりらしいが可愛らしいことこの上ない。
ごくりと喉を鳴らすのはどうにか堪えて、青峰は見かけだけは余裕たっぷりに黒子を見下ろした。

「テツ、それ逆効果だからな。おれ以外にそのツラ見せんなよ」
「青峰くん以外にそんな相手いませ…ッ」

はっとして口を噤む黒子だったが、もう遅い。

「――――へぇ。…そりゃ、いいこと聞いた」

ニヤリ。不敵に笑うと、青峰は触り心地の良い太腿をいやらしく撫でさすった。
内腿の皮膚の薄いところと、下腹から臍までをそろりとなぞられることに弱いのは知っている。
びくびくと肌を震わせながらどうにか閉じようとしていた脚にすっかり力が入らなくなるのを見計らって、青峰はぐいとシャツをたくし上げた。

「ッや、」
「……勃ってる」
「さっ、最低です君は…!」
「そうやって恥ずかしがってんのも可愛いけどな」

赤く色を変える黒子の頬に小さく唇を落として、グ、と割り込んだ自分の腰を押しつける。
途端に、黒子がかっと熱を上げるのがわかった。

「…な?わかんだろ、テツ」

おまえだけじゃねえんだよ。
上等なスーツの生地ごしに感じる青峰の昂ぶりは確かで、黒子はたまらなくなって青峰を引き寄せた。
思わぬ力強さに彼が体勢を崩したのを良いことに、黒子は意地の悪いことばかり囁く青峰の唇を塞いでしまう。
しっかりと目を瞑っていたから、黒子は気づかなかった。
きょとりと一瞬驚きに目を見開いた、青峰の無防備な表情に。
もちろん、瞬きの後には黒子の求めに応じるべく青峰から舌を絡めていったから、例え目を開いていても気づけるはずがなかったのだけれど。

「は…ッ、ん、んぅ、」

唾液の絡む粘着質な音に煽られる。黒子よりも基礎体温の高い青峰の舌は、熱い。
ざらりとしたそれに舌の裏をくすぐられ、青峰の口内に舌を引き入れられて吸われると、頭の奥がじんと痺れた。
ぬるぬると触れ合う舌先にぞくりと性感が走って、甘い息苦しさにじわりと眦(まなじり)が滲む。
フ、と鼻を抜ける甘えた声に気を良くしたのか、青峰の手が黒子の肌を大胆に這った。
青峰の大きな手が好きだ。自分よりもずっと力強い、けれど熱くて優しい手は、いつだって黒子の憧れだった。
今よりずっと幼かったころから、この手に髪を掻き乱されたり、直に肌に触れられるのが心地よくて仕方なかった。
アメリカに渡った青峰は、会うたびに自分ばかりが焦がれているとでも言いたげに黒子に触れたけれど、餓えているのは黒子だって同じなのだ。
離れている距離も、時間も変わらない。それをちっともわかりやしないのだ、青峰は。それが恨めしくもあるけれど、鈍感なところも愛おしい。
つまりは青峰が好きで好きで仕方ないのだと、それくらいの自覚は黒子にだってあった。

本当は離れてなんかいたくない。
青峰を追ってアメリカに渡ってしまいたいとさえ思うけれど、特別彼の力になれるでもない今の自分では、ただの足手まといだ。
根っからバスケ馬鹿の青峰は、シーズンが始まればそれこそ寝ても醒めてもバスケット漬けの生活になる。他のことは一切気にかけない。
そんな彼をサポートしてくれる専属の代理人は、弁護士を経てスポーツ・エージェントとして開花した人であるのを知っている。
青峰の才能を理解し、心酔して、自ら面倒な契約のあれこれを請け負ってくれたのだから、信頼に足る人物だ。
自分をここに招いてくれたのも彼―――バリーだったから、青峰が信用しているのもよくわかる。
そんな彼に嫉妬なんてものを覚えてしまうくらいには、青峰と過ごすことのできる時間はあまりに短かった。

これ以上を望むのは贅沢だ、そう理解している自分もいる。
けれどまるで子どもみたいに、青峰が足りないと駄々をこねる自分がいるのもまた確かだ。
今回の帰国だって、青峰が無理にスケジュールを詰めて実現したのを、本人は口にしないけれど知っていた。
外国籍でNBAスタメンの地位を確立した青峰は、プロ入りからずっと注目の的だった。
今回のMVP獲得で本国の報道も過熱する一方だろうに、バリーが優秀であるのに任せて大手スポーツ紙と報道機関の独占取材を約束すると、さっさと日本へ帰ってきたのだ。
あまり我を通すことは、彼の為にもならないだろうに。
そんな無理をしてでも会いに来てくれることを嬉しく思う。同時に、自分の力のなさが悔しくもなるのだ。
けれど、後ろを向いてばかりもいられない。
彼が彼でいられるよう、彼に守られずとも自分で立てるよう、……彼のために、力を手に入れなければ。



「アッ、く、ぁおみ、ねく…ッ」
「息、吐け、テツ……ゆっくりでいい。大丈夫だから」

どろりとしたジェルをたっぷり絡めて、青峰の骨張って太い指が黒子の内壁を確かめる。
しばらく受け入れることをしなかった襞はきつく閉じて青峰の指を拒んだけれど、強張る唇に、頬に、瞼にひとつひとつ優しくキスをおくられて、
まるであやすような青峰の声に溶かされて、黒子の身体がゆっくりと開いていく。
何度も抱いた身体だ、どこが弱いのか、どうすれば頑ななそれがとろとろに蕩けていくのか、青峰は黒子自身よりずっとよく知っている。
ハ、ハ、と苦しげに繰り返されていた浅い呼吸がだんだんと硬さをなくし、青峰の思うさま乱れていくのに煽られて唾を飲み下した。
堅い蕾がほろりと花開くように、青峰の愛撫に従順にほころんでいく黒子が愛しくて仕方ない。

「―――ッあ、アァ、っめ…!」

弱いところを捉えたのか、だめです、と舌足らずに制止をねだる声は、一気に青峰の熱を上げた。
汗ばんでしっとりとした肌が手に馴染む。アヌスに指を三本捻じ込んで追い上げながら、白い脇腹を手のひらで撫でた。
すっかり乱れてボタンの飛んだシャツの下、胸もとに手を這わせれば、どくどくと速い鼓動が刻まれている。
反らされた喉に興奮を覚えて噛みつくと、ひゅ、と息を呑むそこに痕を残した。
必死に声を殺そうとするのに、喉仏をくすぐるように舌でなぞって「聞かせろ」と促す。

「ッア、ァッ!」

スーツ越しに小刻みに腰を擦り付けると、屹立しきってとろとろと蜜を零す性器が感じ過ぎて辛いのか、赤い舌をちらつかせて黒子が喘いだ。
熱に浮かされた水色の瞳が揺らいでは青峰を映し、欲しい、と声なく訴えかけてくる。
なんて顔しやがる、と青峰は内心舌打ちでもしたい気分だった。
久しぶりに抱くのだ、思いきり甘やかしてやりたいし、大事にしてやりたい。
けれど同時に、青峰の中で餓えていた獣が今すぐに食らいつきたいと牙を剥くのだ。
黒子の匂いに、声に、体温に、その獣を押さえつけていたはずの理性の鎖がちぎれそうになる。

「ッ、テツ…」

頼むからあまり煽るなと情けなくも伝えるのに、フフ、と吐息だけで笑われた気がして視線を向けた。
とろりとしたままの瞳の奥にからかう色が滲んでいるのに気づいて、青峰はムッと眉を寄せる。

「おい、テ――…」

ぺろり。
文句を告げようとした青峰の唇を柔らかに舐めたのは、青峰の首に腕を回すことでどうにか上体を起こした黒子の舌だ。
虚をつかれた青峰を他所に、黒子は舐めた後をそっと唇で触れて、ぽす、とベッドに沈む。

「優しすぎて、……らしく、ないんじゃないですか」
「―――~~ッ、クソ!」

知らねェぞ、と悔し紛れの捨て台詞ひとつ。
青峰は纏っていたシャツを床に投げ捨てた。




「ッン、ンン、ぁ…ッ!」

青峰に突き上げられるたび、殺しそこねたあえかな声が唇から漏れた。
久しぶりに受け入れたそれはきつくて苦しいのに、愛しくて気持ちいい。
感じすぎてつらい浅いところを何度も狙って抽挿され、そのたびに黒子は幼い子がいやいやするみたいに頭を振った。
「イヤ」も「ダメ」も青峰には通用しない。それが黒子が感じている証拠だと知っているからだ。
「許して」とねだれば首筋に浮いた血管を狙って噛みつかれ、心臓が騒ぎだすのに合わせて奥を抉られる。
その衝撃にひく、と呼吸を呑み込めば、甘やかす唇が髪に頬にまるで羽根みたいに触れるから、たまらなくなって青峰を抱き寄せた。

「あ、ア、青峰く…ッ、あお、みねくん…ッ!!」

淋しかった。
いくら強くいようと思っても、結局黒子は淋しかったのだ。
決定的な溝が出来たときに一度は離れる決心をしたものの、バスケットを通じてまた彼の本質に触れることが出来た。
それが嬉しかった。
中学のときよりもずっと深い関係を持つようになって、高校を卒業した後もそれが変わらずに続いて。
そうして大学で、転機を迎えた。
アメリカで活躍するようになった彼をもちろん誇らしく思ったけれど、同時にどこか遠いところへ行ってしまったような気がして、淋しかった。
学生のときのように自由に会うことは難しくなったから余計にだ。
けれど、今は違う。
以前よりずっと逞しくなった背が、黒子がしがみつくのを許してくれる。
名前を呼べば呼び返してくれて、勝手に零れていく涙を大きな手が拭ってくれる。
吐息が触れる距離に彼の肌があって、誰より一番近いところに青峰がいる。

―――求めずになんか、いられるものか。

「……ッき、すき、です、あお…ッ、ンン…!」

好き、と泣きながら求めてくれる唇に、青峰は思いきり噛みついた。
愛しいと思う気持ちが自分の中で荒れ狂って、これ以上何か聞かされたら、黒子を壊してしまいそうだったからだ。
逃げる舌を捕まえて絡めて、めちゃくちゃに吸い上げる。
まるで余裕のないガキみたいにがちりと歯がぶつかったけれど、気にも留めていられない。
息苦しさにひくりと黒子の舌が震えたのがわかって離してやれば、また、小さく好きだと告げられた。

「…ッ……、ああ、」

知ってる、と強気な台詞を返してやって、汗の伝う首筋を舐めてはいくつも痕を残す。
舌先に感じる黒子の滑らかな肌はひどく熱くて、どくどくと脈打つのが聞こえてきそうなほど。
逃げる腰を掴んで引き寄せ、奥まで突き上げれば綺麗に背を反らして応えてくれる。
乱暴にジェルを足すせいで、体液と混ざったそれがさんざんに下肢を汚していた。
ぐちゅぐちゅと濡れていやらしい音が立つのにぎゅっと目を瞑りながら、青峰を受け入れる柔襞は貪欲に絡みついてくる。
ときどき揶揄するようにそれを教えてやると、涙の零れる目もとを赤く染めて、せめてもの抵抗にか青峰の背に爪を立てるのだ。
いつもクールに澄ました彼を乱してやれるのが自分だけかと思うと、興奮に神経が焼き切れそうだった。

甘く掠れて名前を呼ぶ声も、背にしがみつく指先も、頬を流れる涙のひとつだって、誰にもやらない。誰のものになるのも許さない。
テツは、他の誰でもない、―――――オレの、ものだ。

欲望の赴くままに、ぎ、と頸動脈に歯を立てると、アア、と悲鳴にも似た黒子の声が聞こえた。
それでも恍惚とした様は、そのまま牙を突き立てられることを望んでいるようにも見えて。
テツ、と直接鼓膜を揺らすように耳元で囁いた後。
床に忘れられたまま緩やかに朽ちていく花束が恨めしげに見上げるベッドの上、熱を交わすことに、ただ夢中になった。








「…重い、です」
「ンー…悪ィ、」

脱力した青峰を受け止めていた黒子がなだめるように背を叩くと、青峰はようやくゆっくりと身を起こした。
呼吸ばかりは収まったものの、頭の芯は余韻に痺れたままだ。
汗は急速に冷えていくのに、身体の内側にこもった熱はいまだ散りそうにない。
繋がれたままの下肢にぞくんと背がざわめいて、黒子は小さく息を吐き出すことで熱を逃がした。

「もう、いい大人なんですから…ちょっとは落ち着けないんですか」
「馬鹿言えよ、足りねェっつの。だいたい煽ったのはおまえだろうが」

オレがどんだけ欲しがってるか思い知れ。
拗ねたような声で言われるついでにがぶりと鼻先に噛みつかれて、痛いです、と黒子は一応の抗議を言葉に乗せる。
おまえは違うのかとでも言いたげにぶすくれた表情を作る青峰は、本当にわかっていない。

「…一番最初に、言いたいことだってあったんですよ」
「ア?」

部屋に来るなり押し倒されたから、すっかり言うのが遅くなってしまった。
そう文句を続ければ、察しがついたのか青峰の眉がぴくりと跳ねて、わずかに目が見開かれる。
いつも、青峰が日本に帰ってくるたび、黒子が一番に告げていた。
空港で出迎えるファンやマスコミの「それ」は耳に差したイヤホンから流れる爆音で掻き消し、聞かないまま黒子のもとに来る彼のこと。
きっと誰より黒子の口から聞きたいんだろうと―――そう自惚れてもいいくらいには、愛されているのを知っている。
知っているから、黒子はふわりと笑みを浮かべて青峰の待つ言葉を口にした。


「…おかえりなさい」
「……ん、」


どこか気恥ずかしそうにぽりぽりと耳の裏を掻きながら、

ただいま。

そう照れ臭そうに向けられた笑顔は、中学のころとまるで変わっていない。
ぎゅっと心臓をわし掴まれたような気がして、黒子はやはり青峰には勝てないらしいと諦めにも似た自覚をする。
黒子の心を攫うのは、いつだって青峰だけなのだ。


「青、峰くん」


―――もう一回、…してください。

ぽそり呟かれたのは、今宵最大級の爆弾で。
喉の奥で低く唸った青峰がほんのりと色を変えた黒子の首筋に噛みつくまで、もうあとわずかのことだった。





「夜のベッド」で登場人物が「つよがる」、「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。というツイッターのお題でした。