St.Valentino - at the night -     07.03.19 08.02.19掲載




「St.Valentino」の続編です。






その夜だ。
期待しろとは言われていたが、この触れ方はないだろう。
泣きそうになりながら、スクアーロは鎖骨をなぞるザンザスの頭を押しやった。

「…何しやがる」

不機嫌な紅が間近でこちらを向いて、言いながらぺろりと仕舞われる舌がやけになまめかしく見える。
既に胸元には幾つかの紅が散っていて、しばらくは襟の開いた服は着れないなと遠く思った。

「こっちのセリフだぁ…」

返せば、なんのことだとでも言いたそうにザンザスが眉を跳ねた。

「…っんで、こんな…」

いつものザンザスのセックスは、もっと荒い。言ってしまえば自分勝手だ。
なのに、どうして。
思えばゆっくりとベッドに押し倒されたときから嫌な予感がしていた。
それが的中しているのだと気づいたのは、口づけられた後だったが。
口内を這う舌の動きがいつもよりずっとゆっくりとしていて、
自分の方へと招き入れては甘く噛んで、ゆるりと絡めて、舌の裏をくすぐられて。
そうしてふるりと睫毛が震えるころに、ほどかれた。
一度目尻に口づけた後、ザンザスの唇は頬に触れ、再び唇に触れて、いまは離れた鎖骨へ。
こんなにゆったりと優しい愛撫を受けるのは、一体いつ以来だろう。慣れなくて困惑した。

「嫌か?」

言外に、そうではないのだろうと紅い瞳が語る。どうだ、と促されて、返答に困った。
事実、嫌だというのではない。ただ、どうしていいかわからないだけだ。

「甘ったるいココアの礼だ。ありがたく受け取れ」

言われて、嫌がらせかと訊けば目と吐息だけで笑われた。
確かに昼間いれてやったココアは、少々甘くしすぎてしまった感があるが。
それでも文句など言わずに飲んでいたくせに。
けれど向けられた視線は柔らかで、不覚にも胸がどきりと鳴った。


「ン……ぁ、」

はぁ、と熱く吐き出しながら、胸元を辿るザンザスの頭に右手を置いて、喉を反らす。
反対側の手で枕を掴んで、頭をふるとシーツに落ちた髪がぱさぱさと鳴った。
弱い脇腹をザンザスの手が下って、おざなりに裾を突っ込んでいたシャツを引き抜いて、パンツに手をかけた。
ぴたりと脚のラインが出るタイトなそれは、いつだかザンザスと外へ出たときに買ったものだ。
覚えていたのか、ザンザスがふと目を細めた。
するりと布の上から内腿を撫でられて、その側の脚が跳ねる。
なだめるようにもう一度撫でられた後、ジィ、とジッパーを下げる乾いた音がした。
腰の裏に手が回るのを感じて、浮かせて脱ぐのを手伝う。
慣れた仕草で、ザンザスはスクアーロの細い脚からパンツを引き抜いた。
既に兆しを見せている熱にアンダーの上から触れて、ザンザスが意地悪く刺激する。

「て…っめ、…めろぉ…!」

羞恥を煽られて、ぎりと音がしそうなほどに奥歯を噛み締める。
腹のあたりから見上げる瞳は、楽しそうに笑んでいた。
臍の脇へひとつ、また紅い痕を残して、ザンザスがゆっくりとアンダーを下ろす。
薄暗いなかにあってなお、その行為が妙に恥ずかしかった。
すっかり露になった肌の輪郭を視線で辿るようにしながら、兆した熱へと唇を寄せた。

「っあ゛、やだ、ボス…!」

ぬるりと濡れた感触がそこを這って、弱い皮膚をくすぐっていく。
いつもは自分が強いられる行為。
してよこしたことなどなかったくせに、なんの気まぐれだ。
これも甘いココアへの意趣返しだと言うなら、本当にタチの悪い。

「ア…ッ…ァ、や…ッ」

片手では足りなくて、金属のそれも足して上下するザンザスの頭を押しやる。
けれどそれも形だけで、力など既に入らなかった。
膝を立てた、その太腿をザンザスが掴んで、強引に開かせたまま間に顔を埋めている。
快楽と羞恥とがないまぜになって、火照った頬を涙が一筋伝っていった。

「ッァ―――…!」

声にならない声を上げて、スクアーロが達する。
ぎゅうと髪を握り締められて、わずかにザンザスが身じろいだ。
ふわりと太腿を掠める短い頭髪がくすぐったい。
口内に吐き出された熱をザンザスが飲み下して、溢れたそれを親指で拭いながら、

「…まじぃ」
「ッじゃ飲むなよぉ!!」

恥ずかしくてたまんねぇんだぞぉ、言って上体を起こしかけたが、
今しがた唇を拭った濡れた親指に入り口をぐりと刺激されて、引き攣った声とともに枕へかえった。

「飲ませたのはてめぇだろうが」
「ッ、舐めたのはてめえが…ッ、…あ゛、やっ…ボス!」

縁を慣らすようにしながら、ザンザスが入り口を拡げ始める。
けれどそれもやはり常に比べればずっと優しくて、違和感とともに脚を震わせた。

「ッひ…!」

腰を下から持ち上げるようにして、ザンザスが掴んだ太腿を引き上げる。

「いやだっ…、ヤ、ザンザス!」

意図を悟って、スクアーロががむしゃらに抵抗を始めた。
腰を捻るようにして逃がして、足の先でザンザスの肩を蹴る。チ、と舌打ちをしたザンザスが、

「暴れんな」

言って、ぐいと開かせた太腿に噛み付いた。
痛みを与えない程度に歯を立てて、付け根に向かって舐め上げる。
その感触に目を瞑って、スクアーロがもう一度、いやだ、と言った。
小さく消えるように呟かれたそれを聞いて、ザンザスが短く息を吐く。


「…濡らさなきゃ入んねぇだろうが」
「っ、けど、よぉ…!いつもはそんなんしねえじゃねえか…」
「いつもと同じじゃ礼になんねぇだろ」
「もう礼じゃなくてイヤガラセだぁ!」

頼むから、もっと普通に抱いてくれよ。どうしていいのか、わかんねえ。
涙混じりに嘆くのを聞いて、わざわざ優しく抱いてやろうというのに、とザンザスが呆れたように口にした。

「限度ってのが、あんだろぉ…」

頬を染めて、スクアーロが視線を逸らす。
それを見て、ザンザスは掴んでいた太腿をシーツに下ろした。
そのまま、無言で自分の身体を起こす。

「ボス…!」

怒らせたのだろうか。
そう思って、スクアーロが肘をついて上体を起こす。
切羽詰った様子の声を聞いて、ザンザスがゆっくりとスクアーロを見る。

「…なんだ、なに焦ってんだ、てめえ」
「な……ぁ゛、ボス…?」
「ハ、素っ裸のまま放置されるとでも思ったのか?」

望むならそのとおりにしてやるぞ、と言われて、スクアーロは一瞬でも焦りを覚えた自分を恥じた。

「っくそ…!タチ悪ィんだよっ、てめえ!」
「フン…、カスが」

くっくとおかしそうに肩を揺らして、ザンザスはスクアーロの手を伸べる。
その意を量りかねて、スクアーロは首を傾げた。

「…来い」

焦れてやがるんだろう?
浮かべる笑みが、厭味なほど様になっている。
再びどきりと鳴る胸に、内心で舌打ちだ。
伸べられた手を取れば、強く引かれて、あっという間にザンザスの胸のなか。
耳を甘く噛まれて、取られたままの右手でザンザスの手を強く握った。
緩く膝を立てたザンザスの両脚を跨ぐようにして、シーツに膝をつく。
見上げてくる紅がやけに強く感じて、胸がざわついた。

「…てめえで慣らすか?それとも、慣らされてぇか」

ひどく意地の悪い問いを寄越すものだと思う。
どちら、とも言葉には出来ず、スクアーロは繋いだザンザスの手を己の口元に引き寄せて、唇で挟んだ。
満足そうに唇を歪めて、ザンザスがスクアーロの舌を捕らえて遊ぶ。
それを受け入れて唾液を絡めながら、ザンザスのパンツに手をやった。
ベルトのバックルを外して、引き抜きもせずただ緩めるだけで終わる。
何も言わずにスクアーロのしたいようにさせて、その右手がジッパーを下ろすと、
いよいよといった様子でザンザスが肩を揺らした。

「…いいぜ?好きなようにしてみろよ」

間近で笑む瞳にぞくりとなにかが背を走って、関節を緩く噛んだ後、ザンザスの指を口から離した。

「あ………ァ、」

自分の唾液に濡れた指で、入り口を拡げられる。
ザンザスは関節までを飲み込ませて幾度が動かした後、ゆっくりと体内へ埋め込んだ。

「ン…!」

びくりと目を瞑ってそれに耐え、スクアーロがそろとザンザスの熱を取り出す。
五指を絡めてゆっくりと動かし出すのに、ザンザスは目を細めて鎖骨に吸いついた。
ァ、と小さく声を上げて、スクアーロがくと顎を上げる。
その顎の先にも噛み付いて、ザンザスもまたゆっくりと指を動かした。


「っく…ァ、あぅ、ザン…」

体内を動く指が3本になるころ、スクアーロはすっかり力を抜いてザンザスの肩に頭を預けていた。
動きを止めた右手には、屹立したザンザスの熱。

「なんだ、もう終わりか?」

だらしがねぇな、と揶揄する声が聞こえて、けれどそれに反論も出来ない。

「も……ぅ、」

欲しいのだと言葉には出来ないまま、ザンザスの首筋にゆるりと歯を立てる。
かしかしと何度か噛み付くそぶりを見せると、ザンザスがようやく体内から指を抜き去った。

「ぁ……」

抜かれたそこが物欲しげにひくりと喘いで、ザンザスに顔を上げるよう促される。
従ってゆるゆると顔を上げれば、真っ直ぐにこちらを見上げる紅い瞳と視線が交わって、
唇の端にひとつなだめるようなキスをされた。

「腰、落とせ」

ぴたりと自分と違う熱をそこに感じて、スクアーロが息を飲む。
それを腹から吐き出しながら、ゆっくりとザンザスの熱を受け入れ始めた。

「はっ………ァ、あ、ザン…っ」

ぐぐ、と慣らしてなおきついそこを拡げられて、思わずスクアーロが逃げ腰になる。
それをザンザスの手が押し留めて、ゆっくりと時間をかけて根元まで飲み込ませた。

「ん゛っ……、ァ!」

ザンザスの肩にしがみついて、最奥までいきついた衝撃にスクアーロが喘ぐ。
脇腹を撫でさすってスクアーロが落ち着くまで待つと、動けるか、とザンザスが耳に囁いた。
問われて、数瞬おいた後、こくりと頷いて応える。

「ふ…っ、ぅ、あ゛・ッァ!」

ゆっくりと腰を引いて、再び、押し付けるようにしてザンザスを迎える。
目の前で揺れる白い身体を、ザンザスが満足そうに眺めやった。
汗に濡れたこめかみから手を差し入れて、髪をかきあげてやる。
薄っすらと瞳を開ければ、常になく穏やかな瞳をしたザンザスがそこにいた。

「あっ、ザン…!」

その目に見つめられるのに耐えられなくて、スクアーロが俯く。
見越したようにザンザスが下から突き上げて、
自分のタイミングとはわざと外されたそれに、スクアーロが高く鳴いて仰け反った。
そうして晒された胸元へ、ザンザスが唇を寄せる。
頂を歯でひっかけて、舌で転がして吸い上げる。
それで感じるように教えたのは、他でもないザンザスだ。
弱いそこへ与えられた刺激に、頬を伝う涙がとめどなく溢れ始める。
見上げて、顎先まで伝ったそれをひとつ舐め、

「―――…上出来だ」

あとは、感じていろ。
言うが早いか、ザンザスが背を抱いてスクアーロをシーツへ押し倒す。
突然変えられた体位に、体内の熱に内壁の弱いところを抉られて、スクアーロがまた泣いた。

「スクアーロ」
「あ、あっ、ザンザスッ―――…」

後は強い律動に揺さぶられて、白い光を追うばかり。


* * *


キングサイズのベッドに寝転がったまま、スクアーロはうだうだと枕にじゃれついていた。
少しの間落ちてしまっていたようだが、その間に後処理をしてくれたのか、身体に不快感はない。
耳には、シャワーの音が聞こえていた。

「お、」

唐突にその音が止んで、バスルームのドアが開く音。
視線を向ければ、珍しいローブ姿で、ザンザスがタオルを片手に頭髪を拭っているところだった。
スクアーロの意識があることに気づいたのか、
ザンザスがペリエを二本とヴィーノを一本手にしてベッドの側へと歩み寄ってくる。

「さんきゅなぁ、ボス」

ペリエを受け取って、ザンザスが腰掛ける脇へ半身を起こした。
渇いた喉を刺激していく炭酸が心地良い。
ザンザスも同じようにペリエを開けて、ぐびと二口ばかり飲んだ後、
栓を開けたままベッドサイドの机へ置いた。
代わりに開けるのが、ヴィーノの栓だ。
まさかそのまま飲む気かとペリエの瓶口を唇に引っ掛けたまま見上げると、
思ったとおりにザンザスがそのまま呷り出した。

「…う゛お゛ぉい、あんたなぁ……」

いくら酒に強いとは言っても、それはあんまりじゃないのか。
続けるが、ザンザスがそれを気に留める様子はまるでない。
はぁ、と息をつくと、ふいに己の前に影が落ちた。

「ボ…ッ」

見上げればザンザスが目の前で、有無を言わさず口づけられる。
そしてそのまま、割った唇の間からヴィーノを流し込まれた。

「ん……、ッン」

されるままに飲み込んで、溢れたそれは顎を伝ってシーツへ落ちていった。
離れていく唇は、一度顎から唇の端までを舐めて、もう一度触れるだけのキスを唇に落とす。
それをゆっくりと見送って、スクアーロは雫の行方を辿った。



「……あーあ、落ちねぇぞぉ、これ」

見下ろしながら言えば、

「買い換えればいいだけのことだ」

さすがは御曹司様といった回答。
このシーツ一枚で一体なにがどれだけ買えると思ってやがるんだ。
口には出さずに、そう思う。

「スクアーロ」
呼ばれて上を向くと、唇を啄ばまれる。
いつのまにかザンザスが手にしていたヴィーノは机に置かれ、スクアーロが手にしていたペリエもいまはザンザスの手の中だ。
栓をして、ベッドの端へ無造作に投げられてしまう。

「ボス…」

呼べば、またふさがれる唇。どこか甘えているようで、少しおかしかった。
笑った吐息が知られたのだろうか、唇を離したザンザスがスクアーロの鼻を摘む。
ふが、と情けない声を上げるその前で、ザンザスがローブの紐を解いた。
同時に、スクアーロが包まっていたシーツも剥ぎ取られる。
ふるふると首を振ってザンザスの指から逃れると、

「う゛お゛ぉい、またヤんのかぁ!」

少々焦りを滲ませた声で、スクアーロが言う。
ローブを肩から外しながらスクアーロをシーツへ縫いとめて、


「今日は恋人の日なんだろう?」
「な゛……っ」
「照れてんじゃねえよ、ragazza」
「照れてねええぇ!!!」


だいたいオレは女じゃねぇ!とうるさくわめく口をふさいで、


「黙ってりゃいい思いさせてやる」


ザンザスが凶悪に笑うのを、スクアーロは絶望に似た思いで見上げた。


fin.


07.03.19 08.02.19掲載 07春コミにて無配。