春はあけぼの     08.08.19





「先輩なんすかそれ」
「あー、なんか、現世の昔の……えーと、随筆?つったかな」
「ずいひつ?なんでそんなもん知ってんです」
「こないだ黒崎が」
「は?一護?こっち来てたんすか」
「おまえちょうどいなかったんだよな。朽木隊長と出てて。会いたがってたぜ」
「ああ……隊長がなんか、茶会?とかで、俺連れてこいって言われたらしくて」
「なんでおまえ?」
「副隊長さんはちゃんとした方なのかー、とかってよ。貴族のお取り巻きさん方は分かんねぇ」
「まーなぁ、平民出身だしな」
「平民どころか。犬吊っすよ、俺」
「バーカ、俺もあんま変わんねぇよ」
「はは。一護、元気そうでした?」
「おう。更木隊長に見つかりそうになって慌てて出てった」
「……あの人、一護の霊圧にゃァ反応いいからなぁ……そういや更木隊長といや」
「なんだ?」
「なんだ、って、アンタっすよアンタ」
「俺?」
「更木隊長と殺り合おうとしたらしいじゃないスか」
「殺り合うって……誰から聞いたおまえ」
「一角さん」
「あー……斑目か」
「意外だったっつーか、あんたそんなに戦い好きでしたっけ?」
「好きじゃねーよ。あんときは……あんときの事情があんだろ」
「それにしたって、相手は更木隊長っすよ」
「ああ、今考えるとうすら寒い」
「なんだ、もう殺る気ないんすか」
「ざけんな。相手考えろ」
「更木隊長ならいつでも歓迎だろーけど」
「勘弁しろよ……」
「はは。……で、話戻りますけど」
「あ?」
「さっきの。どういう意味なんすか」
「ああ……なんか、春は曙の、山際の空がにわかに白くなって雲がたなびいてんのがいいんだ、とか、そんな意味だった気ィすっけど」
「へー……ちょうど今くらいっすか」
「まあ、時間にすりゃこんなもんだろうな」
「……なーんか、やらし」
「はぁ?なにがだよ」
「好きでこんな午前様まで起きてる奴も、わざわざ起きる奴もそういないでしょ。なんか理由ないと」
「書き物してたとか、酒呑んでたとか、たまたま早く目ぇ覚めたとか」
「……さっきまでの、俺とあんたみたいなことしてたとか」
「ば…っ、」
「照れないでくださいよ。可愛いから」
「阿散井!調子乗ってんじゃ…っ」
「あんま可愛い反応されっと、もっかい…」
「付き合ってられっかこの絶倫!!」
「そりゃ先輩より若いんすから……って!痛ぇって!髪引っ張んの反則!」
「うるっせぇ!…ったく…朽木隊長もてめぇみてーな色ボケの部下持って苦労されてんな」
「色ボケって…」
「文化をヒワイに捉えっからだ。そういや霊術院じゃ筆記の成績は悪かったもんなぁ」
「……先輩だって苦手なもんくらいあったでしょ」
「おまえ、俺が斬拳走鬼万能型だって知ってるか?」
「…あー、っくそ!どうせ俺は斬術だけっすよ!」
「は、拗ねんなよ」
「拗ねてなんか…っ」
「恋次」
「……っ」
「れん…」
「あんた、ずりぃ」
「そりゃ、てめぇよか年食ってっからな」
「あーもー……あんたにゃ勝てねぇよ」
「ま、もう少し頑張んな」
「……精進します…」
「よし。んじゃ、寝んぞ」
「えー……」
「えー、じゃねぇ。明日副長会議だろ」
「…………」
「恋次?」
「先輩」
「なんだ?」
「明日の会議、隊首会がずれ込んだんで、中止になったって知ってました?」
「え」
「……つーわけで、イタダキマス。」

fin.



08.08.19