優しい指先     06.10.20





だからさ。
気持ちいいんだ、ってば。


「おい…ランボ」
「んー?」
「なんべんも言ってんだろ、アホ牛」
「なにを?」
「葡萄食うなら髪拭いてからにしろ!」

風呂上りのリボーンは、そう言ってがしがしとランボの頭をタオルで拭いた。
「ちょッ、痛い、痛い!」
「黙れアホ牛。拭いてねぇてめえが悪い」
「だからって……もー…」
タオルの下から恨めしげにリボーンを睨んでやって、それから自分で水滴を拭う。
跳ねる髪を指で梳きながら拭くうちに、後ろからタオルを引っ張られた。

「リボーン…?」
「拭いてやる」
「…え、どうしたの、リボーンが優しいとか気持ち悪…」
「死にてぇか。」
「オネガイシマス。」

こめかみに黒光りするそれを押し付けられて、ホールドアップ。
初めからそうしろ、なんて勝手なリボーンの台詞を耳に、引き寄せられるまま、身体を預けた。
タオルから手を離せば、ゆっくりと濡れた髪を梳かれる。

「…猫っ毛」
「うるさいなー」
「触り心地は悪くねぇな」
「…そ。」
「照れてんのか」
「ッ、違う!」
「図星か。アホ牛の思考回路はわかりやすくていいな」
「だから違うってば!」

ドライヤーをあてながら、リボーンがからかってくる。
くつくつと笑いながら、長い指がたどっていく。
くるくると絡む髪を撫でていく感触と、時折耳で遊んでいく仕草が、好きだ。

「なに食ったらこうなるんだ?」
「っるさいな、生まれつきだよ!」
「そりゃ難儀だな」
「な…ッ!自分が直毛だからって馬鹿にして…」

頭のてっぺんに顔を寄せて言うのを、抗議のために上を向けば。
そんなランボさんの行動を読んでいたのか、啄ばむようなキスをくれた。
「…リ、ボ…ッ」
「だから、わかりやすいって言ってんだ」
「…くそっ…」
赤くなる頬を隠せなくて、俯く。
勝ち誇った声のリボーンが、首筋にひとつキスをした。


「もうすぐ乾くぞ」
「…ん……」

そのまま、髪を乾かすリボーンの指に意識を委ねる。
自分じゃない、他の誰かに髪をいじられるのは気持ちがよくて、もしかしたらそれはリボーンだからなのかもしれないけれど。

(…やれやれ、そうだったら認めたくないな)

でも、この指が好きだ。
優しい感触が愛しくて、嬉しくて。
だんだんと、瞼が閉じていく。



「ランボ…?」
リボーンがドライヤーのスイッチを切るころには、ランボの意識はすっかり沈んでいた。
声は聞こえてくるけれど、瞼を上げる気にはなれない。
「………このクソ牛…」
溜息をついたリボーンが軽く口付けて、それからゆっくりとランボの身体を抱き上げた。
「………アホヅラ。」
辛らつな言葉とは裏腹に、やけに優しくベッドに運んで、布団をかけてやってから。
また、ランボを起こさないように髪を梳いて。

ああほんと、こういうときしか優しくないね、おまえは。
起きてるときに、この10分の1でも優しかったなら…
まあ、そんなのは天地が逆さになったってありはしないんだろうけど。
それでもその感触に酔いながら、ランボは夢に堕ちていく。


なぁ、リボーン。

何度も注意される、オレのこの行為が。
こうして眠りにつくのが好きだからって、伝えたら。
おまえはどんな顔するんだろ。

(眉間に一発、食らいそうだけど。)

fin.



06.10.20
サロンで髪洗われたり乾かされたりするとものすんごく眠くなる。