こちらは「痕の残った薬指」の続きのお話になります。
前作をお読みでない方はそちらからご覧いただけると、
話の概要がつかめるかと思います。
前作から更に5年後、リボーン21歳×ランボ25歳。
晴れた日、ボヴィーノの庭先。
芝生に寝転がったランボは、傷の残る左手を空にかざした。
薬指。
そのつけ根。
未だに残る、赤い痕。
「……はは、懐かしー…」
ふにゃ、とランボの顔が崩れたところへ、
「なにニヤけてやがんだ、バカ牛」
黒いスーツの訪問者。
「リボーン!」
驚いてはね起きて、ランボはいだっと首をつる。
バカ牛、ともう一度吐き捨てるリボーンに、ランボは滲んだ瞳を向けた。
「いつ帰ってきたんだよ!それに、どっから入って来て…」
「ボヴィーノの警備なんざチョロイな」
「なっ、うるさい、一言余計だよ!」
そうなのだ。
ランボの記憶が確かなら、
リボーンは綱吉とともに日本へ行っていたはずなのだった。
もう、二週間も前になる。
『明日、日本に飛ぶ』
日本へ発つその前日、急に訪れたリボーンは言ったのだ。
いつ帰ってくるのかと訊ねても、さあな、と含んだ返事だった。
それがまた、急に現れて。
「で、なにをニヤけてたんだ」
「ん?ああ、見てよこれ」
リボーンの切りかえしに、ランボは左手を見せた。
「…?なんだ?」
「覚えてないの?薬指だよ、リボーンが告白してくれたときの――…」
じゃきん。
不穏な音は、コンマ数秒。
眉間に押し付けられた銃口に、ランボは笑顔で凍りつく。
「オレがなんだって、ホルスタイン」
「イエ、ナンデモアリマセン…」
青ざめたランボに満足して、リボーンは愛用の銃をしまい込む。
ふん、と鼻を鳴らしてボルサリーノをかぶり直すと、取り出した煙草に火をつけた。
「まだ残ってんのか、その痕」
その痕が刻まれたのは、5年も昔。
いまでこそランボばかりをそれとは見せずに溺愛しているリボーンだが、当時はまだ数多くの愛人と関係を持ったままだった。
しかし男で相手にしていたのはランボだけだというのに、ランボがあまりに弱々しく笑うから。
まだ早い、とセーブをかけていた自分の想いを、ついついランボに聞かせてやってしまったのだ。
リボーンにとっては消し去りたいような、恥ずかしい夜のことだった。
体の再生機能がニブイんじゃないか、と皮肉るリボーンに、
「人につけられた傷は残るんだよ」
ランボは口をとがらせる。
「そりゃ悪かったな」
つけたばかりの煙草を放って歩き出すと同時に、リボーンが投げて寄越した黒い箱。
「うわっ、ちょっ、リボーン!」
あわてて煙草を踏み消しながら、ランボは箱をキャッチする。
「恥ずかしいなら隠しとけ」
捨て吐いたリボーンの姿は、すでに門の向こう側。
いったいどこから、と目を見瞠る門番係を尻目に、リボーンは悠々と出て行った。
「もう。火事になったらどうするんだよ…」
後姿を見送って、ぶつぶつと呟きながら手元の箱を紐解いてみる。
「え…」
現れたのは、シンプルなプラチナのリング。
見るからにリボーンの趣味ではなく、ランボ自身の好みと知れる。
リボーンのことだ、きっとぴったりはまる指は、傷のついたそこしかない。
「リボーン…ッ…」
泣き出しそうになるのをこらえて、ランボはリボーンを追いかけた。
fin.
06.06.15
20年後には恥ずかしいバカップルになってればいい。