Poker Face - side M -      10.09.10 10.09.14掲載




※ほんのりイタしてますので注意!





見下ろす先でなまめかしく上下するその背の、笑う髑髏は敬愛してやまない男のそれだ。
愛しくて仕方がないと、柄にもなくそう思う相手の背負った誇りは、同じように誇らしいけれどどこかちくりと胸を刺す。
身勝手に汚れたその感情には知らないふりをしてきたけれど、己の与えた悦楽に酔い、
己にすべてを預けて忘我の淵にある相手がそれでも失うことのない唯一の誇りは、ときどき、マルコの弱くやわらかい部分に爪を立てるのだ。

「マルコ……?」

一度は身体を退こうとしたはずのマルコが動きを止めたことに、呼吸を整えていたエースがゆるりと振り向いた。
こめかみを伝う汗、上気した頬、ゆらりと揺れて濡れるその気だるい視線も、確かにマルコのもののはずだ。
マルコがそうと求めて、エースの意思ごと自分のものにした。そのはずだった。
けれど唯一奪えないものがあって、それは誰よりも誰よりも強く雄々しく焦がれる相手のもので、「嫉妬」だなんて感情を抱けるような相手ではないのだ。
それでもどうにも、胸に苦い澱が沈むのは、いったいどういうわけだろう。

「ッぁ、なに……っ」

退こうとしていた腰を再び沈めて、腕の力に任せて揺さぶれば、責めは止んだものと緊張を解いていたエースの身体がびくりと過剰な反応を見せた。

「ちょ、マルコ……っ、も、無理だ、って、ァ」

きゅう、と熱く締めつけてくるそこは先ほど放ったマルコの熱でぐずぐずに蕩けて、やわらかく包み込む内壁にはあと息が漏れる。
綺麗に浮いた肩甲骨、濡れて卑らしく艶めいた肌と、くっきりと刻まれたその誇りがマルコの雄を煽る。
食い破って、やりたいとさえ。
それで手に入るだなんて微塵も思っていないけれど、本能に抗わぬままマルコはエースの背に噛みついた。

「い……ッつ、ばか、痛ェよ……っ」

エースの手がシーツを握り締めて、その甲に浮いた骨さえやけに卑猥に見えて、マルコは噛みつくそこへぎりと力を込めた。
苦鳴を飲み込むようにごくりとエースの喉が鳴って、熱い粘膜がぎゅうとマルコを締めつける。
追い上げて、追い詰めて、再び吐精するのはそれからまもなくのことだった。




「あ――……痛ェ、ぴりぴりする」

くたりとベッドに沈み、俯せたままのエースがじとりと視線だけでマルコを睨んだ。
その視線にいささかばつの悪さを覚えて、ベッドに腰掛けたマルコは視線を泳がせる。

「おれはあんたと違って再生しねェんだぞ……歯型なんかつけやがって」
「……しばらくシャツでもはおってりゃいいだろい」

口達者なはずのマルコらしくない台詞でエースの口撃を受けると、意外そうに眉を跳ねたエースの口角がゆるゆると上がっていく。
どうやら、滅多にない勝機と見たらしい。
ほんとうに、碌でもない機ばかり読むのは勘弁しろと言うのに。
ち、と舌打ちしたマルコに、エースはゆっくりと上体を起こしながら愉しそうに笑った。

「あんた、結構独占欲強いよな」
「うるせェよい」
「いつになったら消えっかなァ、この歯型」
「……なんだ、嫌だったかい」

思いのほか拗ねた声が出てしまって、しまったと言葉を止めるけれどもう遅い。
エースの機嫌は上昇する一方だ。
いまにもベッドをころころと転がりだしそうなほどの上機嫌で、上目遣いにマルコを見上げる。

「いいや…どっちかってェと、優越感っつーかよ。あんたおれ以外に執着してるもんなんかそうそうねェだろ、親父くらいじゃねェの。あァ……、その親父にも嫉妬してんのか、いまは」
「自惚れんじゃねェよい」
「はは、説得力ねェよ、それ」

笑ったエースがマルコに手を伸ばし、おざなりにはおったシャツの裾をついと引く。
逸らしていた視線を向けると、珍しく意地の悪そうなそれとばちり、かち合った。

「……なァ、歯型じゃなくて、キスが欲しいんだけど、おれ」

とびっきり甘ったるいの、ひとつ。
そうねだる黒い瞳は、悪戯猫そのものだ。
溜息をつけば、失礼だなとエースが唇をとがらせた。
そのつんと上向いた唇にまた欲情を覚えるあたり、どうしようもなく溺れている。


(……本当に、性質の悪い)


もう一度だけ、マルコは自分に溜息を許した。
お望み通りの甘ったるいキスを贈りながら、触れる舌先に焦がれている。
どれだけ求めても手に入れても、渇くばかりの心はまだ、満ち足りることを知らないのだ。



fin.



マルコサイドでした!