Latte condensato      10.07.03




※現代パラレル、苺ミルクネタですすみませんごめんなさい。



「……ずいぶん、久しぶりに見る気がするよい」

マルコが驚くのも無理はないかもしれない。
忙しくて構ってやる暇がない、と言った恋人に遠慮して、久しく訪れることのなかった部屋。
土産、とエースが差し出したのは、いまが旬の赤い実だ。

「マルコ、仕事に没頭するとすぐ煙草吸うだろ。いい加減若くねェんだから、肌荒れするっつの」
「ビタミン摂れって言いてェのかい」
「ん、そゆこと」

厭味ったらしく笑ってやれば、生意気な口だとマルコの眉が不満気に寄せられる。

「買ってきたばっかで冷えてるし、食う?マルコ、どうせ碌にメシも食ってねェんだろ?」
「おまえは?」
「メシは食ってきたけど、食うよ、もちろん」
「わかった、上がれ。カフェオレは?」
「欲しい」
「用意してやるから、それ寄越せよい」
「え、おれやるよ?」
「いいから上がってろいっての」
「……へへ、ありがと」

ふにゃりと笑えば、そのへんに座ってろ、と指先で合図されて、エースはいつも通りにラグの敷かれたソファに体を沈めてテレビをつけてみる。
ぽちぽちとチャンネルを変えるものの、昼日中、やっているのはワイドショーか某MのMんた司会の健康番組か、安っぽいテレビドラマくらいだ。
つまんねェな、と早々に見切りを付けて、テレビの横に綺麗にディスプレイされたCDを漁ることにした。

さすがにマルコは趣味がいい。
サッチの部屋にはわけのわからないサントラだとか、果てにはアニソンばかりのCDまで置いてある始末だ。
否定する気はないけれど、あんまり趣味は合わない。
(ついでに無修正AVのロムまであるから笑えない。)

これも、これも……と古い洋楽やら邦楽に始まり、クラシックやピアノジャズまで漁っていると、フローリングを裸足で歩くまぬけな音が近づいてきた。

「なにしてんだよい」
「んー?……CD。マルコって趣味いいよな」
「おまえが雑食なだけだろい。ああ、いま手に持ってるやつ、好きそうな音だったよい」
「え、ほんとに?落としてっていいか?」
「好きに使えよい。ほら、苺」
「おー……」

湯気を立てるカップがエースの前、いつだか買いに行ったガラステーブルの真ん中あたりには苺の入った器が置かれた。
ご丁寧に、へたはすべて取り除かれている。
そのついでに、マルコが置いたもの。彼にはずいぶん似合わないもので、エースは思わずきょとりとマルコを見上げた。

「……マルコ、それかけんの?」
「てめェが前に置いてったんだろい。おれにどう使えってんだい」
「あ、そっか。はは、持って帰るわけにもいかねェしなー、いいよ、たまに減らしに来るから」
「……甘党の考えることはわかんねェよい」

マルコは言うなり苺を一粒とって、そのうえにとろとろと練乳を搾り出した。
みずみずしい赤を、どろりと白が覆っていく。
そうしてそれを、ずいとエースの前に突き出した。

「え、なに」
「……食わねェのかい」
「くっ、食う食う、もちろん食うよ!」

珍しい、と驚きながら、久しぶりに受ける甘やかしにエースは遠慮なく口を開ける。
ぱくりと一口で頬張れば、苺の甘酸っぱい果汁と甘い練乳とが絶妙の味わいだ。
練乳を開発した人はもしかして天才なんじゃないかとエースは思う。
隣ではマルコが再び餌付けの準備をしていて、差し出されるそれをエースはまた有難く頂いた。

「……ん、うまい」

ぺろりと舌で唇を舐めてから、カフェオレに口をつける。
十分甘いはずのそれをほろ苦く感じたのは、きっと練乳のせいだろう。
その一部始終を見ていたマルコが、新たな苺に練乳をかけつつ言った。

「……なんか、なあ」
「ん?」

白に覆われたそれを再びエースの口に運んだマルコがぽつりと言う。
もぐもぐと幸せそうに口を動かしながら視線を送れば、その先でマルコがにやりと笑んだ。

「コレ、見てると妙な気分になってくるよい」

そう言って示してみせたのは、練乳に白く汚されたマルコの指先。
言いたいことがすぐに伝わって、エースはぼっと頬を赤くする。

「こっの、エロオヤジ!」

昼間っからなに考えてんだ、と野次ってみれば、やれやれといった調子でマルコが肩をすくめる。

「仕方ねェだろい。……現役なんでな」
「ちょ…ッ……マルコ、」

その汚れた指先で、エースは手首を捕まれて引き寄せられた。

「な……ッ、離せよッ」
「……エース」
「マ…ッ……ん、んぅ…」

唇をふさがれて、口内を好き勝手に貪る舌からは苦いコーヒーの味がする。
酸素が足りなくなって、くらり、揺らぐ視界。

「ぁ……ッは、ぁ…」
「エース」
「ン…ッ」

エースのそれを離れた唇は、耳元に優しいキスを落とす。
意地の悪い指先は、ゆるく着ていたシャツの中を這いだしていた。

「…ッ…ぁ、マルコ…ッ……、真っ昼間っから…!」
「イヤかい?」
「ちが……っ……けど、」

ここで、すんのかよ。
寝室の方を視線で追ってみて、言葉ではなくそう伝えてみたつもりだったのに。

「ああ、ベッドがベタベタになったら面倒だろい」

マルコの言葉の意味を、理解できなかったのはエースの不覚だった。
ゆるゆると肌を這い上がって胸の突起に達したそれに、いじられて快楽の淵に追いやられていく。

「ン、ぁ……ッ……あ、マルコ……」
「気持ちいんだろい。おまえ、ここ弄られるの好きだからな」
「あッ……やめ、…ッふ…」
「すぐにとがって、赤くなっちまう」
「ぁ……ン、このへんた…ッぁ!」
「うるせェよい」

不機嫌になったマルコにシャツを脱がされ、ちゅ、と乳首を吸われてエースの背が反る。
マルコの前戯は本当に意地が悪い、と目を瞑ったところで、どろりと冷たいものが胸を伝った。

「ッぅあ…!?」
「ああ、冷たかったかい?」
「マルコ、何して……ッン…ぁ…」
「……やっぱり甘ェよい」

胸元を汚したのは、マルコがさきほどまで手にしていた練乳だ。
つつ、と粘度の高い液体が流れていくのを追いかけるように舐め上げられて、言葉にしようのない感覚に襲われた。

「んっ…バカ、やめ…!」
「小道具は有効活用が基本だろい」
「っざけんな!や、やだ……ッぁ、あ!」
「感じてんだろうが、文句言うんじゃねェよい」

カリ、ととがりを歯で甘噛まれる。
疼く刺激にエースの背が反って、満足そうに笑ったマルコが練乳を舐め取った。

「こっちにも欲しいかい」
「バ……ッ、ほん、っとに変態!!」
「あーあー……言ってくれるもんだよい」
「ぁ……ッ、ま、待って、悪か…ッ」
「遅ェ」

つん、とつつかれた主張を始めたエースの中心が、手際のよいマルコに衣服を剥がれて昼の明るい空気に晒される。
どうしようもない羞恥が襲って体を捩ってみせても、マルコの前では無に等しい抵抗だ。

「マ、ルコ!」
「ずいぶん可愛い反応しやがって。そんなに恥ずかしいかい」
「やッ……ぁ…!」

先端にちゅ、と口付けられて、手にしていた練乳を掲げられる。
止める間もなくそこに垂らされて、伝っていく練乳をマルコの舌が舐め上げた。

「ぁ――…ッ!」

どろり、上から伝う練乳の感触と、下から裏筋を舐め上げてくるマルコの舌の感触。
エースの背を駆け上がったのは、抗えない快感である。

「ん……甘ェ、エース……」
「やっ…め、喋んなぁ…ッ!」
「いいんだろい?」
「は…っく……んぁ、マルコ……ッ…」

脚の間のマルコの頭に、縋るように手を伸ばす。
押しのけようとはしてみたけれど、そんな抵抗は掻き消された。

「や、だァ……!マルコ、やっ……んァ!」
「こっちも……白いし、ベタつくし、やらしくなったもんだよい」
「んッ……あ、ぁっ、マル、コぉ…!」

いつのまにやら、後孔に這わされたマルコの指。
白を纏った指は好き勝手にそこを弄んで、潤滑剤代わりの練乳が、嫌に耳につく音を立てる。
這っていく舌の感触が、まだ慣れない。


「マルコ……ッ…あ、舐め、んなぁ…ッ」
「慣らさねェと、きちィのはおまえだろい?」
「ん、ッけど……ひ、ッあ……!」
「諦めろい。おまえの弱いとこなんざ、おまえよかよっぽど良く知ってる」

だから、抵抗するんじゃねェよい。

笑みを含んだ声音に、びくりとエースの腰が跳ねた。
それを押さえ込んだマルコが、指を増やして柔襞を好きに掻き回す。

「あ――ッ…ァ、んっ、マルコ……!」
「気持ちいいかい」
「ッ、ィ……ア、いィ…ッマルコ、マル……ッ…」
「……ああ……どこもかしこも、今日はずいぶん甘ェよい」

最後にぺろりと入り口を舐め上げてから、マルコが体を起こす。
すっかりソファに沈んでいたエースに、ちゅ、と軽い口付けを寄越して。

「もう、大丈夫だろい」
「ん、欲し、マルコ……」
「……いっつもそうやって素直だといいんだがねい」
「んッ、バカ……あ、マル……ッ…」

ゆっくりと押し拡げて入ってくる熱に、目を瞑った。

「うぁ…ッあ、ん、マルコ……っ」
「エース……きちィか」
「へ、ぃき……っだから、はやく……!」
「……ん、」
「ッは……あ、ッぁあ、マルコ……!」

ひらかれたそこが疼いて仕方ない。
散々なぶられた熱は、捌け口を求めて身体を廻る。
どうしようもないそれを早くどうにかしてほしくて、エースはねだった。

「ァ、んんッ……マル、ッあ、ァ!」
「ッ…は、今日、どうした、エース」

いつもより素直で、たまんねェよい。
耳を食みながら吹き込まれた台詞に、エースは潤んだ目を承知で睨みつける。

「……どこまで煽ったら気が済むんだい」

マルコの目つきが変わった、と思った。
獲物にとどめを刺す瞬間の、貪欲な、獣の目。

「あ…ッ!?…っや、マルコ、やだ、ッあ、あ…!」
「悪いな、加減してやれそうにねェよい」
「ぁ――…ッ……ま、…あッ、ぅあ…ああっ」

痛いくらい強く腰を掴まれて、エースは思うさま揺さぶられた。
擦れ合う粘膜が音を立てて、酷いくらい喘がされて。
その激しさに、肩に爪を立ててやることしかできない。


「ひ…ッあ、あ、や、ッあァ!」
「ッは……エース……っ」
「マ、ルコ……マルッ…や、あっ、んん――…っ!」

唇に噛みつかれて舌を貪られる。呼吸もままならなくて、意識が白んで。
突き上げてくる熱と、揺さぶられる体と、犯される口内。頭の中がぐちゃぐちゃで、甘い香りが思考を奪って。

「は、んぅ…ッ…マル、もッ、い…ッ…イく、イ…っからぁ…!」
「く……ッ」
「あッ、あぁああっ…―――…!」

最奥を突かれ、先端に爪を立てられて、痛みと、それを上回る快感に、
咥え込んだマルコの熱を締め付けてエースは達した。






「……機嫌なおせよい」
「うるさい変態だまれあっち行け」
「ちゃんと綺麗にしてやったろい」
「ったりめーだ馬鹿野郎!」

行為の後。
当たり前ながらべたべたになった体と、ぐちゃぐちゃになったソファと、リビングの床が残った。
力が抜けて立てないエースをマルコが抱えて風呂場に連れ込んで、後処理の最中に、もう一戦。
完全に足腰の立たなくなったエースを寝室に運び込んで、少しの睡眠を貪る間に、マルコはリビングを片したらしい。
そうして、ついさっき目を醒ましたわけだが。

腰の鈍痛がどうにも酷くてたまらない。
どうにか機嫌を取ろうと構ってくるマルコがすでに煩わしい。

「も、あっち行ってろよ!」
「酷ェない。おれがいなくなったら淋しくて寝れないんじゃないのかい」
「いねェ方が安心して熟睡できるっつの!」
「よいよい」

それじゃ書類でも片付けるかねい、誰かがいると進まないし。
そう厭味ったらしく告げて寝室を後にしたマルコの後ろ姿に、べ、と舌を出してみせて。

安眠できる、と目を瞑ったはずのエースが、数分後には淋しくなって
マルコの元に向かうのは、ここには記せない秘密である。


fin.


須田さんごめん…!