Love Game      09.12.28



ぐずぐずと溶かされそうな熱だった。
蕩け出しそうな闇色の夜空には零れ落ちそうな満天の星々が輝いていて、手を伸ばせば届きそうなほど。
残念ながら伸ばすはずの手は男の背にしがみつくのに忙しくて、星はひとつも落ちてこなかったけれど。

見張りを代わると強硬に申し出たエースに、必要はないでしょうがと部下が持たせてくれたランタンの灯りは、もうずいぶん前に消してしまった。
見張り、とはよく言ったものだ。
拠点のひとつとしている島の入り江は、ちょっとやそっとじゃモビー・ディック号が見つかるような造りをしていない。
もともと、それを見越して拠点とした島だ。
隊長連中だってほとんど船を降りて、久しぶりの陸地で宴を開いている。
その最たる上座では、きっと白ひげも上機嫌に笑っているに違いない。
船番だって他にいるし、他の3隻の船も本船の代わりに見張りを務めているのだ。
船を降りなかったクルーたちもまた、甲板で酒を呑みながら海を見ているはずだった。
……つまるところ、エースが見張りをする意味など皆無に等しい。


高い高い、誰の目にも届かない場所。
メインマストの見張り台が、今宵一晩の逢瀬に選んだ場所だった。


荒い呼吸がようやく落ち着いて、男の膝の上、もたれていた肩から顔を上げる。
持ち込んだ毛布の下、火照った背を撫でていた指先が、あやすようにとんとんと叩いてくる。
ガキじゃねェよと眉間に皺を寄せると、くすりと笑った唇がそこに降りてきた。
ぱちぱちとまばたきをすると、背に回った手がするりと腰を撫でて、緩い快感が背を這い上る。
そんな悪い熱に浮かされたように、エースが口を開いた。

「あつ……い、マルコ、の」

火傷、しちまう。
白く夜空に消える吐息にそんな婀娜な台詞を乗せれば、マルコの眉が意地悪そうに跳ねた。
そんな表情にさえ、エースの背はぞくりと粟立つ。

「おまえのがよっぽど熱ィよい」

ぴちゃりと耳朶を舐める水音とともに低い声が鼓膜を犯して、エースの腰が震える。
素直な反応にくすりと笑う、漏れた吐息にさえ煽られるのだからもうどうしようもない。

「……若いねぃ。まだ足りねェのかよい」
「ば…っか、もう抜け、って……あッ」

悪戯に揺すられて、忘れようとしていた熱にまた火が灯る。
浅く繰り返す呼吸は震え、男を咥え込んだ粘膜はあさましく疼いた。
散々注がれた男の欲がぬちゅりと体内で音を立てて、引き抜かれるのに合わせて緩く伝い落ちていく。
あらぬところを濡らすその感覚に、思わずマルコの肩にしがみついた手に力を込めれば、鍛えられた腕にぐいと腰を抱え直された。

「……ったく。隊長二人してこんなじゃあ、示しがつかねェってもんだよい」
「っなに……っあ、」
「明日。おまえんとこの部下に、よーく礼言っとけよい」
「あッ、マルコ、だ……めだ、って、ッア……!」
「……聞こえてねェ、か」

与えられる熱と快楽とに、エースの思考が溶けていく。
再び遠慮なく背を焦がしていくざわめきに、まるでさらわれるように身を委ねる。
マルコの肩ごしに見える夜空と暗い海は、涙の膜にゆらりと揺らめき始めていた。

ぎゅうとしがみついた肩口に、ひとつふたつと唇を落として吸いつく。
時折かりりと歯をたてると、そのたびに漏れる吐息にくすぐられて、マルコが応えるようにエースの耳を優しく食んだ。
ぴたりと合わさった胸から感じる鼓動が、速い。
もうどちらとも分からないそれがひどく愛しくて、エースは滲んだ視界を閉じて鼻先を擦りつけた。
素直に甘えてよこす仕草に、マルコが満足そうに笑みを浮かべる。
残念ながら、その表情をエースが目にすることはなかったけれど。

「マル、コ、ッあ、マルコ……!」

名前を呼ぶ、ただそれだけの行為にだって必死になる。
穏やかなようで好き勝手に荒らしてくれる熱は性質が悪くて、いつだってエースは溺れていた。
それを悔しく思ういとまさえ、年上の男は許してくれないのだ。
名前を呼んで、しがみついて、爪を立てて、それだけがエースに許されたすべてだ。

ひくりと、しゃくりあげるように喉が鳴る。限界が近い。
背を反らし、ひっきりなしに喘ぐはしたない唇を噛んだけれど、早々にマルコに邪魔されてしまった。
ぬるりと唇を割って口内に入り込んだ舌を、まさかエースが噛めるはずもないのを知っている。
ずるい、男だ。まだなにひとつ、敵わない。

歯列を辿り、上顎をくすぐっては絡めた舌をきつく吸う。
その間も悪戯な手指はエースの好きなところばかり這い回って、そのくせ欲しがる最後の刺激だけは与えてくれない。
きっとエースがねだるのを待っている。ねだらずとも、知っているくせに。
重い気さえする瞼をゆっくりと上げる。
近過ぎてぶれる、そんな位置で鮮やかな青色と眼が合った。
無言でエースを縛り付けるくせに、間近にあるその色は優しい。
―――……どうしようもなく、ずるい男だ。


どうやって、ねだってやろう。


離れた厚めの唇を追って、ぺろりとひと舐め。
酸素の足りない回らない頭で、エースはさて、考えた。


fin.


title:LADY GAGA

「あーあーごちそうさまでした、っと」
「……?なにを見てたんだ、サッチ」
「んー?ナマAV」
「は……?」
「ジョズには刺激が強いと思うぜ」
「おまえ……あ、」
「サッチ隊長、自慢のリーゼントに青い火が」
「うわっ、ちちち!なんてことしてくれんだマルコ!!!」
「てめェがなんてことしてくれんだよい」

サッチ→ジョズ→サッチ→ジョズ→サッチ→ジョズ→4番隊隊員→サッチ→マルコ→エース失神中。