目一杯、背伸び中      09.07.20 09.09.25掲載



※高校3年キッド×大学3年ロー、くらいでパロ注意。
今日は離れてやらない」続編





一風呂浴びての夕涼み。
新たに揃えてもらった浴衣を着て、ゆったりと座椅子にもたれる。
障子窓を全開にしたそこから覗く夜空はよく晴れていた。もうすぐ花火の始まる時間である。



「好きなんだろ、これ。花火見ながら一杯やろうぜ」

振り返った先、キッドの掲げた酒瓶は、ローが好きな日本酒のそれで。
なかなかお目にかかれない代物なのだが、なるほどこんな旅館なら置いてあるかもしれない。
そこまで頭に入れての誘いなら大したものだ。
キッドもローも法律なんてものはあまり気にしない性質である。未成年というには男はいささか育ち過ぎているから、きっと咎められることもない。

「……おまえは一杯だけな」

ほんの少し、年上の余裕。
笑って、ローはふてくされる唇にひとつキスをした。



<目一杯、背伸び中>



「いっつもこんなの呑んでんのかてめェ」

顔を顰めて舌を出したキッドに、ローはガキ、と一言笑ってやった。
どうやら日本酒は初めてだったようだ。
度数は12度、それほど高くないのだが、独特の風味は高校生の舌には合わないらしい。
酒の好みについては話していたが、そういえばキッドといるときには口にしたことはなかったか。
猪口でちまちまと愉しむローに反して、キッドはビールよろしくグラスに注いでいるから余計にだ。

ひとつふたつ、氷を落としてグラスを回してやる。
せっかくの風味は飛んでしまうが、口あたりがよく呑みやすくなるのだ。
……というより、ほとんど水である。
度数は変わらないのだが、キッドのことだ、ひっくり返るような羽目にはならないだろう。

「ビールにするか?」
「……いい、すげェ馬鹿にされた気がする」

拗ねた顔でぐびりとグラスの中身を減らすと、女将が用意してくれた枝豆に手を伸ばした。
どれもこれも夏の風物詩だが、なんとなく唇の端がくすぐったくなるのはどういうわけだろうか。
もう少し、若者らしい酒の楽しみ方をすればいいのに。
気づかれぬ程度に口角を持ち上げて猪口に口を付けたちょうどその時、窓に面したローの頬が明々と照らされた。


「……お、」
「始まったみてェだな」

ばらばらと賑やかな音がし始める。
前座と言えばそれまでだが、花火大会の開始を告げるそれが派手に夜空を彩った。
目に痛いほどの光が交差して、色鮮やかに変化していく。
散り際の火花がぱらぱらと夜空に吸い込まれていって、仄かに火薬の薫りが届いた気がした。
どん、と腹の底から震わせるような音が聞こえたころ、ローが室内の明かりを消してしまう。

「この方が風情あるだろ」

机を挟んだ向こう、三日月を刻むローの唇がやけに艶めかしい。
街灯さえ近くにないから、花火だけが唯一の光源だ。
たまに照らされる肌は酒のせいか上気して見えて、キッドは酔いが回っただろうかとこめかみに指を当てた。

「わかっててやってんのか、それ」
「……なにがだ?」

したり顔の年上の男は、本当に性質が悪いと思う。
ぺろりと薄い唇を舌でなぞる、そんな仕草も計算ずくに違いないのだ。


「……ぜってェ泣かす」
「やってみろ」


まずはそれ呑みきってからな、と指さされた酒瓶にはまだなみなみと中身が残っていて、キッドはうんざりと肩を落とす。
その向かい側、美味そうにまた喉を鳴らす、ローは実に楽しげだ。


fin.


09.07.20〜09.09.25WEB拍手掲載
title:恋したくなるお題

部屋の明かり消して花火見てたのは鈴○社長と毛利小○郎です。
コ○ンの世紀末の魔○師です。