眠りについた男を見て笑う。
億を3つ数える賞金首が口を開けて喉を晒す様はなかなかに滑稽だ。
ひやりと冷たいはずの指を首に添えてもぴくりともしないのは、よほど満足したからだろうか。
そういやいつもより激しかったなァ。
おかげで腰が痛い、と思い出して唇を弛ませた。
出航をいつと確認したことはない。
男のその日は知らないし、男もローのその日を知らないはずだ。
けれど身を起こしても腰に絡みつくその腕は、なにを予期してのことだろうか。
子供っぽいところのある男だとは常々思っていたが、それを嗤うことはいまのローには出来なかった。
唇を噛み締めたことに意味はない。
昨夜男に噛まれたばかりのそこには真新しい傷が残り、じくじくと血を滲ませた。
鉄の味がする粘ついた赤は、男の舌にも刻まれているはずだ。
そんな小さなことにもローは満足していた。
赤色はそれほど好きなわけじゃなかった。
どう足掻いても体内を流れる血液の色は変わらないし、望んだわけでもないのに与えられていることが気に入らなかったからだ。
島に着いて男を見たとき、背が震えた理由はいまでもわからない。
ただ鮮やかな赤が、モノクロに見えていた世界には随分と異質に映ったことだけは確かだった。
夜の闇に沈んだいまでさえ、見下ろせば赤い色は確かにそこにある。
下りた前髪を指先ではらい、あらわれる寝顔の幼さに頬が弛んだ。
閉じた瞼の裏の赤い瞳に、いまはなにを映すのだろうか。
ざわりと胸が侵される、この感情の名前は知らないままの方がいい。
冷えた夜気に肩が震えると、腰に回された腕の力が強まった気がした。
本当に馬鹿だな、とローは目を細めて苦笑する。
「……さよならを言うなら、昨日がいいなァ、ユースタス屋」
場を読まない朝日が薄っすらと、そっけない内装を照らしていく。
そこにある別れはまだ見えない。
fin.
明け始めた空では東雲と紫黒が混じり合う。
乱れることのない寝息もまだ確かに耳に届く。
それだけで生きていける気がした。(淫らに甘い夢の終わり)
09.02.06〜09.05.15WEB拍手掲載
title:L'Arc-en-Ciel
キッド→←←←ロー くらいのあれで