Like A Doggy      09.01.23 09.02.06掲載



赤く塗られる前の唇にひどく欲情したのは、そこに男の血の色を見たからだろうか。
相手の了承を得ることなく触れたそれは少し乾いて、ぺろりと舐めた舌は男の口内に導かれた。
触れる舌先が熱を生む。


<Like A Doggy>


(ああ、やべ、好きだなァ)

エナメル質の白く鈍い刃を居並ぶとおりになぞって、尖った犬歯を舌先で遊ぶ。
それは舌と舌を絡めたかったらしい男の気に障ったのか、数秒も経たないうちに外されてしまった。
もう少しその硬質に触れていたかったのだが。

鼻を抜けていく呼吸に、少し甘さの混じった煙草の薫りがする。
やめろと言っているのにクサの入った煙草を吸うのだから、もうすでに中毒なのだろう。
調剤にはあまり詳しくないが、なにかしら代わりになるようなものでもこしらえてやろうかと思う。
キスが不味いのは頂けない。
いつまでも続きそうなキスを、舌を噛んで制止する。いい加減苦しかった。

「ッはァ……なァ、ユースタス屋」
「んだよ。足りねェ」
「聞けよ。いま繋がってるとこ、な、…ッん」

やめろと言うのに聞かないのは男の性分か。
ならば仕方ないとローは諦めてしばらく唇を好きにさせてやる。
セックスも薬も悪い遊びも知っているだろうに、まだ口唇性欲が強いらしい。
子供じみた男には似合いかもしれない、とおかしく思ったところへ、察したらしい男に舌を噛まれた。

「は、ぁ……痛ェよユースタス屋」
「うるせェ。てめェなんか失礼なこと思ったろ」
「すごいな。以心伝心だ」
「気持ち悪ィこと抜かしてんじゃねェよ」
「素直に嬉しいって言ったらどうだ」
「そのポジティブさどうにかならねェか」
「おれはどちらかと言えばネガティブだ」
「……おれが悪かった」

キッドが折れるのは珍しい。
いつもは敵わないと知っていてそれでも噛みついてくるのに、物足りない。
だがどうやら男はさっさと先に進みたいようだ。
唇に続いてその舌が這うのはローの喉だった。

「は……くすぐってェ、って」
「ちったァ色気のあること言えねェのか」
「ん……っ」
「さっき言いそびれたことは?どうせ碌でもねェんだろうが」

ちゅ、とやけに可愛らしい似合わぬ音を立てて己の痕跡を刻んだキッドが上目に訊ねる。
眉毛がない奴がやるとガラ悪いなァ、と見当違いなことを思いながらローは笑った。

「さっき、キスしてたろ」
「あァ?」
「口ん中と、おれん中。同じ粘膜で出来て、んだ…っ」
「そりゃァ外科医としての知識か?」
「どっちも、ユースタス屋を欲しがってるって、だけ……ッく」
「……てめェにしちゃ上出来だ」

他愛ない言葉遊びの間にもキッドの手はローの身体を好きに這い回る。
適当なようでいて的確にローの好きな場所ばかり触ってくるから嫌な男だ。

「ご褒美、は?」

好きなだけくれてやる。
訊ねれば喉元を指先でなぞりながら口角を上げたキッドに、ローは嬉し気に、わん、と鳴いた。

fin.


犬ころ。
09.01.23〜09.02.06WEB拍手掲載
title:Earl Greyhound