interference      09.01.25



「おはようユースタス屋。なにが食いたい?」

弱りきった表情のクルーを掻き分け進んだキッチンには、事もあろうに昨夜組み伏せた男がいた。
野郎。外には出んなっつったのに。

「なにしてんだトラファルガー」
「ん?……押しかけ女房?」

それは現在の状況であって結果であって決して目的ではないはずだ。
昨夜の記憶はとびとびではあるがぼんやりと残っている。
ふだん呑まない類の酒を浴びるように呑んだのも覚えていた。
店に居合わせたハートの海賊団となぜか仲良く酒盛りに至ったことも。
その後酔いの回ったローがキッドにひっついて離れなくなり、キラーの向ける殺気にもローの部下の嘆く声にもぴくりとも反応しなくなったこと。
仕方がないのでキッドが担いで船に戻ったことまで。
殺すなら正面から殺り合いたい相手であるし、酔っ払い相手にどうにかされるほどキッド自身弱くない。
最後まで心配そうに付いてきた白熊とペンギンは、キッドにその気がないのとローに起きる気がないのを確認すると、起きたら連絡をくれと電伝虫の番号を置いて帰っていった。
それを見送り、見かけ以上に軽い男をベッドに降ろしたところで、思いがけない力にコートを引かれた。
触れたのは唇。絡んだのは舌と体温。
いつから起きてやがったと視線で訊ねるのに応えはなく、ただ唇をねだり続ける男にキッドが折れた。
据え膳食わぬはなんとやらだ。
そうして美味しく頂いたことは、ローが派手にあげた声のせいで寝場所の近い幹部どもには知られただろう。
キッドの悪食も悪癖も今さらのことで、いちいち気にするような男達ではないが、それでも関係を知らない奴らにまでわざわざお披露目してやることはないんじゃないか。
キッドは酒のせいではない痛みを訴え始めたこめかみを押さえた。

「うちはコックは間に合ってんだがな」
「コックはいても新妻はいねェだろう?」

ああ言えばこう言うのはローの得意とするところだ。
新妻の響きに一瞬ざわめいたキッチンは、とっさにキラーの発した殺気にまた静まり返った。
そうこうする間にも案外美味そうな料理が出来上がっていく。
カリカリに焼かれたベーコンは実のところキッドの好物だ。
ちらりとキッドの視線がフライパンに移るのに気がついたのか、ローが笑う。

「前にどっかの店で会ったときも食ってたなと思ったけど、案の定船にもたっぷり積んであったから笑った。好きだろ」

図星を指されるとどうも黙り込むのは人間の性らしい。
無言で肯定を示したキッドを満足気に流し見て、そこの皿取ってくれとローは指差した。
大人しく皿を差し出すキッドを見て、クルー全員が内心で溜息を吐く。

頭はタチの悪い黒猫に捕まったらしい。

視線で確認し合うと、一人、また一人と誰ともなくキッチンを出て行った。
最後出て行こうとするキラーがこつりと電伝虫を置いて、後は好きにしてくれと呟くのに、キッドはこくりと頷いた。
それを見届けたローは上機嫌だ。

「さて、ユースタス屋。昨夜は運動したから腹が減っただろ?」

腹が減っては戦は出来ぬ。
誰が言った言葉か知らないが、言いえて妙とはこのことか。
次こそはマタタビを用意しておこう。
心に決めて、キッドはフォークを手に取った。

fin.


微妙にWild Catを引きずってます。
title:柴咲コウ