Vivid Colors      09.01.10 09.01.13掲載



寒い。
肩が震えるほどには冷え切った明け方。
昨晩はどこで事に至ったのだったか。
思い出すよりも早く、目を向けた先には幸せそうな寝顔が転がっていた。


<Vivid Colors>


(……悪夢だ)

無防備にも程がある。
半分以上その男に占有された毛布を引っ張り返しながら、ローは溜息を吐いた。
3億とんで1500万。
ルーキーにしてはかなりの額が懸けられた首が、今やどうぞお好きにといった体で晒されている。
その首筋に残った細い三本の爪痕は、恐らくはロー自身がつけたものだが知らぬ振りをしておいた。

メイクを落とした素顔もなかなかに男前だ。
眉は薄いどころかほとんどないが、鼻筋はすっきり通って高い。
瞼を閉じると少し幼く見えるのは、やはり常日頃のアイメイクが原因だろうか。
ユースタス・キッド。

(…キッド…ねェ。似合いの名前もあったもんだなァ、ユースタス屋?)

鼻を摘まんでやろうかと手を伸ばして、キッドの眉が顰められるのに引っ込める。
ローの手が離れれば、深く息を吐き出してまた昏々と寝入った。
気配には敏感であるようだが、それでも目を醒まさないのは海賊としてどうなのだと唇を歪める。
キッドの寝顔を存分に眺めた後、ローはベッドから蹴り落とした。

「…ッてェ!!」

これで起きなかったなら白鞘の出番だろうかと薄っすら思っていたローだ。
さすがにそこまで鈍くはなかったな、と鼻を鳴らした。
小さなそれを聞き取ったのか、あるいは睨み上げるキッドの目が早かったのか。
不機嫌な、それでいて鮮烈な赤が思いきり顰められる。
その表情に噴き出さなかった自分を褒めたいところだ。
凶悪な面が拗ねているのが可愛いなどと、一度自分の頭を開いてみたい。
ふやかされたそこはどんな色をしているだろうか。

「てめェ何しやがるトラファルガー」
「うるせェ。ヤるだけヤッたら幸せそうなツラして寝こけやがって」

一発で目ェ醒めるだろ、とローが笑えば、今にも唇を尖らせそうな顔でキッドが呟いた。
そこで悪態のひとつでもついてくれれば良かったものを、よりにもよって。

「仕方ねェだろ事実なんだからよ」
「………は。」
「…あァ?」

動きを止めたローを、キッドが訝しげに覗きこむ。
どうやら己の吐いた殺し文句には気がついていないらしい。
南の海には陽気でヤラレた天然が多いんだろうか。

今の、は、キた。
おかしい、ハートの海賊団を名乗っているのは自分の方だ。
乱されることなどあってはならない。
のに、鼓動は勝手なリズムを刻み始める。


「おい、トラファルガー、てめェ、どうし……」
「このオオボケ野郎!!」
「がっ……!」

照れ隠しの一発。
に、しては、少々気合いが入りすぎたかもしれない。
鍛え上げられたその身体のど真ん中。いわゆる鳩尾と呼ばれる場所に決まった拳。
キッドは再び、強制的に夢の中だ。

「ァ――……畜生、あちィ、耳…つーかほっぺ」

先ほどとは一転、白眼を剥いて倒れたあまり麗しくない寝顔をちらり。
ローはもう一度溜息を吐く。


(甘い空気は似合わねェ!)


fin.


何より恥ずかしいのは自分の思考回路です。
09.01.10〜09.01.13 WEB拍手掲載