Circus      09.08.16



Circus

Kid×Law (R-18)





つ、と差しのべた脚の指で唇を割る。
ぬるりと生温かい舌に指の間をなぞられて、ぞくりと背がわなないた。
赤く濡れた舌は、視覚からも官能を刺激してくれる。
いつもなら感じる鋭い視線は包帯の下だ。
少し物足りない気がするが、代わりに獰猛な気配が頬を撫でていく。
喉笛を噛み切られそうな重く鋭い気配に、ローは昂りをそそり勃てた。

「……たまには悪くねェだろ、ユースタス屋」

形の良いエナメル質を脚先で愉しみながら、相手の名を呼ぶ。
見下ろす先には包帯で目隠しされ、後ろ手に手錠をかけられた愛しい男の姿だ。
他人事のようだが、ローが手ずから施してやった。
本来はキッドがローに対してそうしたがっていたのだが、そこは昨夜の呑み比べの結果というものだ。
キッドが潰れている間に拘束させていただいた。

「……てめェ、後で吠え面かきやがれ」
「フフ、あんまり誘うなよ」

きり、と歯を立てられた親指で唇をなぞり、ローは腰かけていた椅子を離れた。
薄く西日が射すばかりの室内は湿った空気に満ちている。
安っぽい宿を選んだのはもちろんわざとだ。
嗜虐的な気分になれる。

跪いた格好の男に近寄り、トレードマークのコートを剥ぎ取った。
使う予定のないベッドの上へ投げ捨てて、露わな首筋に齧りつく。
いくら男であるとはいえ、急所の皮膚は案外柔らかいものだ。
ぷつりと食い込んだローの犬歯は、容易くそこを傷つけた。

「てめェと違って被虐趣味はねェんだがな」

くっく、と低く笑って言うのに、ローもまた薄い笑みを浮かべた。
その後でぺろりと唇を舐める仕草はやけに卑猥だったのだが、残念ながら視界を閉ざされた男が知ることはなかった。
血の滲んだ首筋を小さな舌が辿って、鎖骨に歯を立て、悪戯に吸いついては下りていく。
鍛えられた腹筋に唇を寄せ、可愛らしく臍にキスをしたところで、ローはキッドを思いきり突き飛ばした。

がたがたと音を立てて傍にあった背の低い机を巻き込みながら、申し訳程度に敷かれた敷き布の上へキッドが倒れ込む。
それを追ってキッドの腹を跨いだローが、満足そうに笑い声を上げた。

「なんだユースタス屋。まだ酒が残ってんのか」
「……てめェで突き飛ばしておいてよく口がまわるもんだな」
「そんなんで使いモノになるのか?」
「つ……ッ」

不格好に開かれた脚の間、掌で包んだそこにやんわりと力を込める。
唇を噛んで上がりかけた声を抑えたキッドにキスをした。

「……たまんねェ、ユースタス屋」
「勃ててんじゃねェよこの変態野郎」

昂った下肢をキッドに擦りつけ、興奮に声を震わせたローに、掘らせる気はねェからなとキッドが釘を刺す。
分かっているとでも言いたげな舌がキッドの唇を無遠慮に侵して、ゆるりと歯を立ててやれば満足そうに喉を鳴らした。

「……なァ……、好きにしていいんだろ」

堪え性のないローの上擦った声に苦笑を噛み殺し、キッドはゆっくりと身体から力を抜いた。
顎を上げて首を晒すことで無抵抗を示すと、ローが性急にキッドの下肢を暴いた。

「ん……、ふ、ッ」

咥え込んだキッドのペニスを舌でなぞり、口内で締め付けては吸い上げる。
濡れた音を立てて口淫を施しながら、ローは己のパンツを寛げた。
昂ったそれを慰めながら、脱いだアンダーごとキッドのコートと同じように放り投げる。
傍に転がっていた甘ったるい匂いの粘液を瓶ごと片手にぶちまけると、すでに熱を欲してひくついていた後孔に指を伸ばした。

「っあ、ァ、」

ぬちゅりと淫らな音を立てて己の指が呑み込まれ、ローは耐えかねて声を漏らす。
すり、とキッドのペニスに頬を押し付ける体勢で、ちろりと舌を伸ばして舐め上げた。
上目遣いにキッドの顔を見遣れば、顎を上げて形の良い唇を噛んでいる。
目隠しの下の表情など想像に容易い。
たまんねェ。口の中でもう一度呟いた。

「ん……で、け、おまえ……」

いっつもこんなだっけか?と軽い口調で、けれど荒い吐息を隠せないローの声を聞いて、キッドが皮肉気に唇を歪める。

「余裕がねェのはてめェの方だろ」

キッドの得意そうな台詞に鼻を鳴らしたローは、一度キッドのペニスを咥えて先端を扱くと、すっかり張り出したそれを口内から追いやった。
てらてらと濡れ光る先端を指先でなぞり、くるくると円を描いて刺激を送る。
いつもキッドにやられていることだ。
気の強いローの意趣返しだった。
きっと気づかれているだろうことだけが、わずかに悔しい。


再びキッドの腰に乗り上げると、ローはおざなりに慣らした後孔から己の指を抜き去った。
キッドの腹に手を置いて己の入り口とキッドの切っ先とを触れ合わせると、腹筋に力が入るのが分かる。
期待されているらしいが、生憎とまだ応えてやるつもりはないのだ。
浅くわずかに迎え入れるそぶりをした後、ローは後孔に擦りつけるようにしてぬるついたキッドの感触を愉しんだ。

「っ、て、めェ……ッ」

拍子抜けしたのだろう、キッドが苦しげに、殺気混じりに息を吐く。
あまり肉のつかない双丘ではつまらないかと他人事のように思ったのだが、案外具合がいい。
何より目の前の男が焦れてくれるなら、それ以上ローにとって愉しいことはないのだ。

「まだだ……、まだだ、ユースタス屋。少しは焦れろよ……」

得意だろ?おまえ。
はぁ、と熱く湿った吐息混じりにローがささやく。
体勢も体勢だし、太腿にも肉がないから女のようにはいかない。
使える部分が少ないなと残念がりながら、その逆女でなくて良かったとも思うのだ。
女だったらきっとこんな生き方はしていなかった。
当然この男にも出会えなかっただろうし、何より男が執着してくれることもなかっただろう。
びくびくと震える己自身を達してしまわぬように弄りながら、ああでも足りない、とぼんやり考えた。
困ったことにこれ以上は、男を焦らすよりも自分が焦れることになりそうだ。

「おまえの指、使ってもいいんだけど、な。酷くされそうだしなァ……、」


おまえは、どうしたい?


そんな不埒な言葉は、自分への誘惑でもあった。
欲しいものは我慢しないのがローの主義だ。
そしてそれを誰より知っているのは、なんの皮肉か拘束されて転がっているその男だ。

「っは……、いいのか、てめェ」
「あァ……?」
「このままおれがイッちまって、……持て余すのは、てめェの方だろ」
「フ……、フフ、格好悪ィ脅し文句だ、ユースタス屋!」

まったく、期待を裏切ってくれない。
簡単に屈するような男なら興味がないのはお互い様だ。
最高に好みだと笑って口づける。
本当に触れるだけで離した後、吐息の触れるその位置で、

「……ご褒美だ」

そう、ささやいた。





「ア、ッあ、あ、っ」

背を撓め、唇を濡らしながらキッドを迎え入れ、どちらにとっての褒美なのかとおかしく思う。
焦れた後の悦楽の方が甘いものだと男は常々言っていたが、確かにそのようだ。
少し焦らし過ぎたか、既に限界が近いけれど。

内壁を満たす感覚がやけに悦くて、最奥まで咥え込んだローは震える息を吐いた。
ひっきりなしに上がる声は泣き声に近い。
頬を伝っていく涙は唾液と混じってだらしなく喉を伝う。それでも良かった。
ぐちゃぐちゃに乱れてみせたところで、どうせキッドの眼は塞がれている。

「ユース、っ、あ、ぁ、は……っ」

腰を掴む力強い手も、悪戯を仕掛けてくる唇もいまはない。
全部、ローの思うままだ。
奥歯を噛み締めて耐える様子のキッドに、無茶苦茶に口づけてやりたくなる。
そんな衝動を堪えながら、ローは腰を揺らした。

「トラ、ファルガー……っ、」
「いっ、ぁ、だめ、だ、呼ぶな……っ」

この場で唯一キッドに侵されるのは、聴覚だ。
かぶりを振ってその声から逃れようとしてみせたところで、ローが己の声に弱いことなどとうに知っているキッドである。
繰り返し呼ばれるうちに、わずかな余裕も残らず剥がされてしまう。

「さんざん善がりやがって、てめェ」
「ア!ッあ、そこ、ユースタ……っ」
「は……、焦れてんのはてめェだろうが……っ」
「―――ッ、や、あ、アァッ……―――っ!」

ふいに弱いところを擦られて、意地で耐えていたローはあっけなく熱を吐き出した。
締め付けた内側には熱い奔流を叩きつけられて、ひくひくと身体を震わせながら余韻に浸る。
ふわふわと宙を舞う意識を持て余しながら呼吸を整え、伝う汗にすら背を震わせた。

「ユース、タス……」

そうして見下ろした先、キッドの腹を汚した己の白濁に、燻ぶる熱を煽られる。
たぶん本能だった。
ゆるりと力の入らない手を伸ばして、キッドの眼を覆っていた包帯を取り払う。
久しぶりに見た気さえする赤い瞳は情欲を湛えて、ローはたまらず口づけた。

「っん、ん……っ」

せっかく整った呼吸をまた乱しながら、キッドの手錠を外しにかかる。
いい加減、触れてほしかった。
かちゃりと小さな音を立てて手錠が外れると、途端にキッドの指がローの身体に触れた。
体温の高い、ローよりも大きなキッドの手はローの大の気に入りである。
背をたどり、身体の線を確かめてから喉元をくすぐった指に舌を甘く噛んで応える。
そのうちに体勢を入れ替えられ、今度はローが押し倒された。

「ん、ユース……」

唇を離して舌を遊ばせながら、近過ぎてぼやける距離でキッドが笑うのを見る。
悪そうに男臭く笑うのがやけに似合うのだから反則だ。
……なんて、不覚にもローが見惚れた瞬間。


「――――え」


がちゃん、と硬質な音とともに、右手首に妙な違和感を覚える。
事の次第を理解するよりも早く、両腕を頭上でまとめられ、左手首にも同じ拘束がかけられた。
それは間違いなく、いましがた外したばかりの手錠である。
ぼんやりしていた意識がようやく焦点を結び、考えるより先に罵声が飛んだ。

「っ、てめ、ユースタス屋!」

どういうつもりだと睨み上げるローの眼前。
やけにゆっくりと愉しげな手つきで、キッドが包帯を指に絡めとっていく。
頭に昇った血が音を立てて急激に下がり始めたところで、


「吠え面、かけっつったろ」


凶悪に唇を吊り上げたキッドに、ローは頬を引き攣らせた。



fin.


title:Britney Spears

「キドロ女王様ぷれい」

リクエストありがとうございました。
なんかもう色々すみませんでした…!