何が起きた。 ここはどこだ。会議室だ。 これは一体何事だ。 すっかり眠気の醒めた頭で、スペルビ・スクアーロは冷静なパニックを起こしていた。 惰眠とキス XANXUS×Squalo その日は定例の幹部会議だった。 字面だけはものものしいが、実際には上等のサロンに集まって、各々好き勝手に過ごしているだけの。 事実、スクアーロは椅子に沈み込むなりこっくりと船を漕ぎ出していたのだった。 意識を失う前、ベルフェゴールがマーモンを抱きしめながらこちらをからかってきたことと、 レヴィにものすごい面相で睨まれたことだけは覚えている。 (どぉせボスが来たら叩き起こされんだろぉ) それはもう、そのまま永遠の眠りにつかされそうな勢いで。 ならばそれまで束の間の休息を、と、任務で徹夜明けのスクアーロは本能を優先させたのだった。 思い返せば、脳みそが飛び出そうなあの衝撃を味わわなかった。 会議がいつ始まったのかも、そしていつ終わったのかも覚えていない。 どうやって自分がこの状況に至ることになったのか、そのプロセスはすっかり抜け落ちていた。 いま己が沈むベッドは、普段自分が使うものとは違ってやたらと寝心地がいい。 二人分の重さを受けているはずなのに、必要以上に沈むこともなければぎしりと軋むこともない。 (こんなベッドに寝てる奴、オレは一人しか知らねぇぞぉ) 思い浮かぶ像はひとつだけだが、どうにもこの状況と結びつかない。 長く伸びた細い銀を、その手が乱暴に掴むことはあっても、優しく扱うことなどなかったはずだ。 しかし今、自分のほかにいる人物は、その髪をゆっくりと梳いては指先で遊ばせている。 時折頭のてっぺんから毛先まで、まるで愛撫でもするように撫でていくのがたまらなく気持ちいい。 (…ありえねぇ) 夢だ、夢。 あのボスさんが、ザンザス様が、ドS野郎が、こんな優しい手つきをしているわけがない。 だいたいどうやってオレをここに運んだっつーんだ。 まさか自分で這ってきたわけじゃねぇだろうし、ボスさんが運んでくれるはずもねぇ。(天変地異があったって絶対だ) モスカに担がれたか引きずられたか、いやそれにしては 「スクアーロ」 ごちゃごちゃと考え始めていたところに、凛と低い声が届いた。 それは紛れもなくザンザスのもので、ああもう勘弁してくれよ、とスクアーロは無視を決め込む。 「起きてんだろ、てめえ」 くい、と髪を引かれるが、瞳を開けられるはずもない。 (どうしろってんだよおぉ) 神様なんてもんがいるなら助けてくれ。 馬鹿げたことを半ば本気で考えた瞬間、 (――――――…) 「―――――…ドカスが」 呟くように一言残して、ザンザスの気配が遠ざかる。 ドアの閉じる音と同時に、スクアーロはがばりと起き上がった。 (う゛お゛ぉい、いまあいつ何しやがったぁ!?) わずかな温もりの残る唇に触れてみて、確かな感触を思い出す。 途端、体温が上がった気がして、ぽすりとベッドに戻っていく。 「嘘だろぉ……」 泣きそうな声を情けないと思いながら、頬が火照るのを止められなかった。 fin.
06.11.11 08.06.23 掲載 いつぞのペラ本から再録。 08.02.19〜07.03.27 WEB拍手掲載 << Back