「ねぇ、ボス、愛人変えた?」


子供の領分
XANXUS×Squalo←Belphegor


なんてことはない、晴れた日の午後。
そろそろ夏の陽射しも和らぎ始め、幾分過ごしやすくなる時節。
よく冷えたアイスティーを机に乗せて、ザンザスは自室で分厚い本を捲っていた。
そこへ侵入してきたのが、子供、と称するには少しばかり育ち過ぎているが、突拍子もなく不躾な質問をくれた金髪の少年だ。
年の頃は自分よりも3つは下だろうか。
半年前、この組織に迎えたばかりだ。
王族の出身である彼だが、この場においては自分の方が立場は上にある。
にも関わらず、へりくだるでもない彼の姿勢が嫌いではなかった。
いまこの時においては、それはいささか忌々しいものであったけれど。

「…うるせえよ」
「あ、ケチ。教えてよ、王子気になる」
「てめえには関係ねぇ」
「関係なくねーよ、だってオレ王子だもん」

教育に悪いとか、ませたことを、などと言うつもりは毛頭ない。
常であればだからどうした、だの、てめえも試すか、だのいう言葉が出ているところだ。
しかしながらベルフェゴールの質問はなかなかに核を突いていて、
ついでに言えばそれが愛人というくくりの付き合いではないのと、その相手が問題だった。
自分と相手とを置いて、他に自分達の関係を知る者はいなかったし、口外するつもりもなかったからだ。
適当にかわせばよいものを、そこはまだザンザスも年相応といったところか、上手い言葉が出てこなかった。

「ボスさぁ、結構そいつにハマってるっしょ」
「…なんの話だ」
「しし、ボス最近、色んな匂いしねーんだもん」

前みたいに日替わりで違う女物の香水じゃないし、まったく匂いがないわけじゃない。ボスは煙草も吸わないし、コロンもつけない。
強いて言えば呑んだ後にちょっとウイスキーが薫るくらいだろ。それにさ、明らかな女物ってんじゃないけど、甘めの匂いがするんだよね。
ボスは甘いモンなんか好きじゃないから、菓子の類いなわけないじゃん?
ね、王子なんか間違ったこと言ってる?

一気に言われて、これも観察力というのだろうか、あなどれないとザンザスは思った。
今の相手と関係するまでは、それこそ適当な女を見繕いも、今後優位に立つための表面だけの付き合いも持ってきた。
女というのはどうにも香水の類いが好きで、相手にしてきた女は誰も皆甘ったるい匂いをさせていた。
彼はそれを逐一記憶していたのだろうか。
「オレよりてめえの心配してろ」
「は?なにが」
「こないだも女殺しただろ」
「あ゛はぁ、バレてた?」
「あんな滅多刺しすんのはてめえくらいだ」
ロクに女も抱けねぇのか?とは、ザンザスのささやかな反撃だ。
むぅ、と唇を尖らせたベルフェゴールは、はたと気付いて話を戻す。

「王子の話はいまは置いといてさー、ねぇボス、新しい相手に会わせてよ」
「ち、いらねぇ頭回しやがって」
「しし、ボス話逸らすの上手いもんねー。で、どこのご令嬢?それとも……うちの隊員だったりして?」

ニィ、と吊り上げられた口元に、ザンザスは一瞬ぎくりと動きを止める。

「あれ、大当たり?」

わずかな反応だったが、それを見逃すはずもなく、ベルフェゴールが身を乗り出した。
すでに深まっていた笑みをさらに深めて、意地悪く言葉を重ねる。
「それにさぁ、嗅いだことある匂いなんだよねー」
「…何が言いたい」
「うちの隊員だったら、知らずに嗅いでてもおかしくないなーって」
「てめえの部下に手ぇ出すほど餓えてねぇよ」
いよいよ核心を突かれそうで、ザンザスはわずかに瞳を伏せた。
だから知ることが出来なかった。
ザンザスの反応に、ベルフェゴールが確信犯の笑みを浮かべたことを。

「ふぅん?まぁいいや、知らないフリしててあげるよ」
「…だから、なんの話だ」

素知らぬふりを通したままで、ザンザスは飲みかけのグラスに手を伸ばす。
その指が縁に触れる瞬間、


「スクアーロとおなじにおい。」


言われてつるりとグラスを取り損ねたザンザスの姿に、ベルフェゴールはうししと笑った。


fin.


08.02.15 ベルの公式年齢が出てから居たたまれねぇです。 << Back