― 優しい指先 ―






だからさ。
気持ちいいんだ、ってば。


「おい…ランボ」
「んー?」
「なんべんも言ってんだろ、アホ牛」
「なにを?」
「葡萄食うなら髪拭いてからにしろ!」

風呂上りのリボーンは、そう言ってがしがしとランボの頭をタオルで拭いた。
「ちょッ、痛い、痛い!」
「黙れアホ牛。拭いてねぇてめえが悪い」
「だからって……もー…」
タオルの下から恨めしげにリボーンを睨んでやって、それから自分で水滴を拭う。
跳ねる髪を指で梳きながら拭くうちに、後ろからタオルを引っ張られた。

「リボーン…?」
「拭いてやる」
「…え、どうしたの、リボーンが優しいとか気持ち悪…」
「死にてぇか。」
「オネガイシマス。」

こめかみに黒光りするそれを押し付けられて、ホールドアップ。
初めからそうしろ、なんて勝手なリボーンの台詞を耳に、引き寄せられるまま、身体を預けた。
タオルから手を離せば、ゆっくりと濡れた髪を梳かれる。

「…猫っ毛」
「うるさいなー」
「触り心地は悪くねぇな」
「…そ。」
「照れてんのか」
「ッ、違う!」
「図星か。アホ牛の思考回路はわかりやすくていいな」
「だから違うってば!」

ドライヤーをあてながら、リボーンがからかってくる。
くつくつと笑いながら、長い指がたどっていく。
くるくると絡む髪を撫でていく感触と、時折耳で遊んでいく仕草が、好きだ。

「なに食ったらこうなるんだ?」
「っるさいな、生まれつきだよ!」
「そりゃ難儀だな」
「な…ッ!自分が直毛だからって馬鹿にして…」

頭のてっぺんに顔を寄せて言うのを、抗議のために上を向けば。
そんなランボさんの行動を読んでいたのか、啄ばむようなキスをくれた。
「…リ、ボ…ッ」
「だから、わかりやすいって言ってんだ」
「…くそっ…」
赤くなる頬を隠せなくて、俯く。
勝ち誇った声のリボーンが、首筋にひとつキスをした。


「もうすぐ乾くぞ」
「…ん……」

そのまま、髪を乾かすリボーンの指に意識を委ねる。
自分じゃない、他の誰かに髪をいじられるのは気持ちがよくて、もしかしたらそれはリボーンだからなのかもしれないけれど。

(…やれやれ、そうだったら認めたくないな)

でも、この指が好きだ。
優しい感触が愛しくて、嬉しくて。
だんだんと、瞼が閉じていく。



「ランボ…?」
リボーンがドライヤーのスイッチを切るころには、ランボの意識はすっかり沈んでいた。
声は聞こえてくるけれど、瞼を上げる気にはなれない。
「………このクソ牛…」
溜息をついたリボーンが軽く口付けて、それからゆっくりとランボの身体を抱き上げた。
「………アホヅラ。」
辛らつな言葉とは裏腹に、やけに優しくベッドに運んで、布団をかけてやってから。
また、ランボを起こさないように髪を梳いて。

ああほんと、こういうときしか優しくないね、おまえは。
起きてるときに、この10分の1でも優しかったなら…
まあ、そんなのは天地が逆さになったってありはしないんだろうけど。
それでもその感触に酔いながら、ランボは夢に堕ちていく。


なぁ、リボーン。

何度も注意される、オレのこの行為が。
こうして眠りにつくのが好きだからって、伝えたら。
おまえはどんな顔するんだろ。

(眉間に一発、食らいそうだけど。)

fin.


06.10.20 サロンで髪洗われたり乾かされたりするとものすんごく眠くなる。 << Back