― 五月雨 ―






繰り返すその夢は
きっと甘く切ない、幻。

「―――――――…」

目が醒める度。
己がいつも同じ夢を見ていることに気づく。

夢のなかのあんたは優しくて
なんの言葉がなくてもそばにいることを許してくれるし、機嫌が良ければ笑ってもくれる。

あたたかい視線が心地よくて
でもどこか気恥ずかしくて
オレは目を逸らすんだ。

そんなオレの頭を、あんたはその大きくて優しい手で
やわらかくかき乱す。
おかしいね、オレの方が年上なのに。
嫌な気がちっともしないんだ。

その温もりがやけにリアルで
泣きたいくらいに、ねぇ、リボーンが愛しくて。
怖いくらいの幸せに満たされて、オレは目を醒ますんだ。


窓の外は曇。
よどんだ空気と、高い湿度。
昨日目にした予報によれば、今日は夜から雨らしい。
安物のアルミの灰皿にくすぶる、彼の煙草。

「―――…は、リボーン…」

現実世界の、リボーンは。
気まぐれに訪れてはオレを抱いて。
オレが目醒める前に部屋を出ていく。
もう何度も繰り返された、都合のいい関係。

「なんで、オレを抱くの…?」

女には不自由しないはずのあんたが、わざわざオレを抱く理由。
己の願望をこじつけられるほど、オレはおめでたくできてない。

まさか愛されているだなんて
そんな都合のいいこと、オレは

「リボーン…っ…」

オレの頬に降り出した雨。
細く、痛く、痕を残して。

煙草の煙。
あんたの残り香。

それにすらわずかな温もりを求めて、オレはあんたの残像にすがりつく。
夢のなかのリボーンは、オレが泣けばめんどくさそうに、それでも頬をぬぐってくれるけど。
現実世界のリボーンは、オレの涙には気づかない。

…それでも。
あんたが欠片ほどもオレを想っていないとしても、

「それでもオレは―――…」

それでもオレは、あんたを愛しているんだよ。

fin.


06.07.02 << Back