<恋って大変! 08.09.28> REBORN! XANXUS×スクアーロ ぼんやりと霞む視界に映るのはいつもの見慣れた天井ではなく、なんの冗談か満天の星空だった。 荒い呼吸はその端を途切れ途切れに白く曇らせて、やがて吸い込まれて消えていく。 冷えた夜気は痛いほどなのに、上気した肌には心地よかった。 「いつまで呆けてやがる」 静寂を破って鼓膜に届いたのは、聞き慣れた主の声だ。 視線を動かせば、とうに身支度を整えた男が煙草に火を灯すところだった。 「ちったぁ労わろうとか、そういう気はねぇのかぁ?」 「なんだ、女扱いされたかったのか?」 「……あんたに期待した俺が馬鹿だったぁ」 「今さら気づくんじゃねぇよ」 もともと頭は良くないだろう、と唇の片端をあげて笑うのが腹立たしいがよく似合う。 小さく灯った火が男の呼吸に合わせて赤々と燃えて、薄い虹彩をちりちりと焦がす。 キン、と小気味良い金属音を立てて閉じられたダンヒルは、いつだか自分が贈ったものだ。 もう3年は前のはずだが、男は案外に物もちが良い。たまに手入れしているのを見かけるが、手つきはやけに丁寧だった。 次の誕生日には新しいライターを贈ろうか、と考えて、すぐに思い直す。 ―――…が、迷った視線の意味を男は得意の直感で悟ったようだ。 「手入れは嫌いじゃねぇ。寄越すんなら上等のもんにしろ」 「は、デュポンの限定物かぁ?カルティエかぁ?」 「カランダッシュ」 「あんた全部持ってただろぉ……」 だいたい桁が違ぇよと切り捨てて、男から視線を逸らした。 微かに漂ってくる血の臭いに、どこかへ飛びかけていた意識が戻ってくる。 今日は久々に愉しい仕事だった。 斬り裂いた人数さえ少なかったが、それなりに手練れが揃っていたのだ。 自分を自分と認識したうえで臆すことなく向かってくる相手は、本当に久しぶりだった。 あえて急所を狙わなかったのは、一撃で終わらせるのが勿体ないと思ったからだ。 存分に愉しんだ後で、諦めを知らない瞳を闇に葬った。 いまは月の影に入ってしまっているが、足元には数人が血溜まりに伏しているはずだ。 仕事の後、一息つこうと思った矢先に感じた鋭い殺気に緊張が走った。 一気に神経が尖ったが、その殺気がよく知った人物のものであるのに気づいて呆れたのが、ほんの数十分前だ。 頭の中で思い返した男のスケジュールでは、確かドン・ボンゴレと会食に出ていたはずなのだが。 出かける直前まで不機嫌だったから、きっといまも引きずったままなのだろう。 会食相手に同情しかけたところで、首根っこを掴まれて唇を塞がれたのだった。 「しっかし場所くれぇ選べよなぁ、ボスさんよぉ」 何もこんな場所で襲ってくれなくてもいいだろう、と非難を込めて口にすれば、 「人の帰り道で血の臭い漂わせてるてめぇが悪ィ」 まったくもって聞く耳なしの返答だ。 第一線に立つことを辞めてもう一年にはなるはずだが、まだ血の臭いには興奮を覚えるらしい。 同じことは自分にも言えたが、さすがに性欲に直結するほどではないと思いたい。 ジ、と石屋根を焦がす音が聞こえて、赤い灯が消える。 いつのまにやら一本吸い終えたようだ。 名残惜しむように細い紫煙が立ち、風に流されて鼻孔をくすぐる。 冷やされた肌がつられてわずかに粟立って、 あ、やばい。 「っくし、」 堪えたつもりだったが、小さなくしゃみが漏れた。 聞こえていなければいいのだがと願ったが、この距離では無理な話だ。 良いからかいの種を与えてしまったと後悔しながらシャツのボタンをとじ始めたところへ、 「とっとと着ろ」 放られた二本の肩章がついた上着は、紛れもなく男のものだ。 「え、あ゛、ボス?」 露わになった肌を隠すように、ほのかに温もりの移った上着が己の上。 真意をはかりかねて視線を送るが、赤い瞳は燻る煙を追いかけるばかりだ。 「二度も言わせんじゃねぇよ、カスが」 ちらりと横目で一瞥をくれて、男の唇がゆるりと持ち上がる。 途端に跳ねた心臓に、これだから質が悪いのだと冷静ぶった溜息ひとつ、上着を顔に押し付けた。 (畜生静まれ俺の心臓!) fin.
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