<それならいっそ罵倒して 08.09.09> REBORN! XANXUS×スクアーロ 暗いです。 気怠い身体を起こす。 つぅ、と脚の間を伝っていく粘液に、知らず溜め息が洩れた。 抱かれたのはこれで何度目になるだろう。 彼が氷の眠りにつく以前と今とで決定的に違うことと言えば、自分達のこの関係だろうか。 もともと主従という一言で表せるような単純な関係ではなかったが、こうして身体を重ねたことで一層面倒な関係になっている。 適当な言葉は、自覚はあるが学の足りない自分では思いつかない。 スクアーロは早々に思考を放棄した。 好き勝手に荒らしてくれた相手は、既に室内にいない。 寝転ぶベッドにも温もりすら残ってはいなかった。 いつものことながら、その事実に少し安堵する。 スクアーロの目が醒める頃に彼がそばにいたなら、何かいらぬ勘違いをしてしまいそうだからだ。 「しかし、よぉ……」 よく厭きない、とそう思う。 男に身体を求められたのは初めてではないが、委ねたのは初めてだ。 最初の夜などそれこそ流血モノの騒ぎだった。 閨を共にするというよりは、寝台まで争い事を持ち込んだような有り様で。 結局は、逆らいきることなど出来なかったのだが。 一声かければ、否、視線さえ合わせてやれば女の方から勝手に寄ってくるような容姿と立場を持っているくせに、 わざわざ目付きと口と態度の悪い、いらぬ三拍子を揃えた男を抱くとは酔狂な野郎だ。 口にはしないが、抱かれる度にそう思った。 「何がしてぇんだ、ザンザス…」 すでに彼の前では口にしなくなった名前を言葉に乗せる。 償いというよりは、戒め。 ただ一人と決めた彼を守ることが出来なかった己に自ら科した。 初めてボスと呼んだときには、一瞬意識が飛ぶほど強く殴られた。 それが変わらぬ姿形より止められた時間よりなにより、8年の隔たりを感じさせて痛かった。 スクアーロがザンザスのいない時間を歩いたと同じように、ザンザスはスクアーロが歩いた時間を知らなかった。 唯一変わらずに傍にあるだろうと思っていたものが、気がつけば8年もの間、知らない時を過ごしていた。 今でもそれを受け止めきれずにいるのかもしれない。 揺さぶられながら滲む視界に映るザンザスは、どこか辛そうな顔をしていた。 慰める術は、持たなかったけれど。 重い腰を引きずるようにしてベッドを降りる。 バスルームまでは数歩の距離で、どうせ使い物にならないからと捨てられる運命にあるシーツを巻きつけて辿り着いた。 やたらと広い造りの浴室は、ザンザスが自ら改装を指示した結果だった。 元より金がかかっているので狭いはずはなかったのだが、御曹司にかかれば手狭だったらしい。 一流ホテルのスイートもかくやという浴室に通じるガラス戸の前、ばさりとシーツを脱ぎ捨てた。 汗だかなんだか分からないものでべたついた身体は、いくら回を重ねても慣れるものではない。 カランを捻って湯を流すと、熱いままのそれを浴びた。 打たれた肌が赤らんで、ぼんやりとしていた意識も戻ってくる。 ふと弛んだ唇は、一度で箍を外したようで、笑いが止まらなかった。 熱いものが後から後から頬を伝ったが、それが自分のものか人工のものかは既に判断の外だ。 額を鏡に擦り付けてひとしきり笑った後、見下ろせば湯と混じった白濁が排水口に吸い込まれて行く。 混じり合うことのない、形を為すことのない、ただ死んでいくだけのそれは、いったいなんの証だというのか。 罰か。 戒めか。 嘲笑いたいのは他のなにかを期待する、この。 殴り付けた拳、ひび割れる鏡に映る自分がただ惨めだった。 fin.
鏡割ったら頭割られそうだ。 << Back