<てのひら 08.09.06>
REBORN!
XANXUS×スクアーロ



32歳ボス×10歳スク
過去も未来も時間軸も捏造ばっちこい
鮫がちょっと(どころじゃなく)頭弱めの純粋っ子でも許せるよ↓







路地裏にいたはずが、気がつけば白い煙に巻かれるとともに浮遊感に包まれていた。
爆発にでも巻き込まれたのかと思ったが、傷も痛みもまったくない。
すでに感覚が麻痺したのだろうか。
もう少しだけ生きたかったなと場違いなことを思いつつ、再びしっかりと脚の感覚が戻ったことに気が付いて、煙の向こうに目を凝らした。
ぼんやりとした影が、やがて像を結ぶ。
――――……男だ。
豪奢な造りの部屋を背景に、自分よりずいぶん年上だろう男がそこにいた。
何故だろう。
彼を目にしたとき、懐かしいような、焦がれるような何かが胸を撫でた。
頬に古傷の残る彼は驚いたようにわずかの間その紅い目を見瞠り、そっと息を吐いたようだった。

「あんた、誰だぁ?」

恐れずに声をかける気になれたのは、どうしてか男の目が懐かしいものでも見るような、優しい色をしていたからだ。

「……良くも悪くも物怖じしねぇ、とは思っていたが…まさかこんなガキの頃からだったとはな」

上から下までを眺めるように視線を往復させて、男は皮肉気な言葉を並べた。
けれど相変わらずその目は優しいままで、言い返す言葉もかき消される。
問いに答えはくれないままで、男は足音も立てずに近寄ってくる。
その手が伸ばされるのに抵抗をしなかったのは、読めない思考に警戒するより何より、男が自分を警戒していないことに気が付いたから。
猫の毛でも撫でるように、短く揃えた髪に男の指が分け入って、指先がそろと首筋を撫でた。
ぴくりと肩が震えたのに、男は満足そうに笑む。

「感じやすいのも、昔からか」

くつくつと愉しそうな男の口から零れたその台詞は、理解しがたいものだったが。
自分でも気に入っている髪の感触を男が慈しみ、ゆるりと肌を撫でていくのはたまらなく心地良かった。
小さい頃、母親にこうされると安心して無性に眠くなったのを思い出す。
離れていこうとする手が惜しくて、ついいらないことを口にした。

「あんたが誰だか分かんねぇけど、俺、あんたの手、好きだ」

離れようとした手は一瞬動きを止め、からかうような台詞が降ってくる。

「毛並と首筋で落ちるとは、まるで猫だな」
「あんな獣と一緒にすんじゃねぇぞぉ。……なんて言っていいのか分かんねぇ、けど、なんか優しい気がすんだぁ」

あんたの、手。

自分に伸ばされている方ではない、もう片方の男の手をとる。
そこには頬と同じように、うっすらと古い傷痕があった。

「……これ。痛くねぇのかぁ」
「ずいぶん昔のもんだからな。痕だけは残っちまったが」
「こんな傷、あるってことは……あんたも、普通に生きてるわけじゃねえんだろぉ」
「……そうだな」

片手を好きにさせながら、男は再び指に髪を絡め出す。
両手で包んでもまだ大きい手をした男は、何故だか自分の左手に目を細めていた。
何かを紡ごうとした唇は、そのまま閉じられてしまったけれど。

「俺なんかより、あんたは、汚ぇ世界とか見馴れてんだろうけど……なんでそんなに優しい手ぇしてんだぁ」
「……俺にそんな台詞を吐く奴はいねぇよ」
「なんでだぁ?……ああ、あんたもしかして偉い人かぁ?こんないい部屋に居るんだもんなぁ」
「ハ、偉い人、か。まぁ……あながち間違っちゃいねぇけどな」

言い回しがおかしかったのか、男の唇が小さな笑みを形どる。

「……手が届くほど側に、他人を近付けねぇからな。触れることも、触れられることもねぇ」
「なんでだぁ?偉い人ってのは、側に人を置くもんだろぉ」
「要らねぇ人間を側に置く趣味はねぇよ」
「けど、よぉ」
「…他人を側に置かなけりゃ、欠片にしろ裏切ることも、裏切られることもねぇ。下手な馴れ合いもしねぇで済む。楽だろうが」
「………」

男の言葉は理解出来る。
きっと「人」が嫌いなのだろう。
理解は出来るが、感情まではついていかない。
男は自分を知っているようだが、自分は男の何をも知らない。
けれど男の言うことをそのまま飲み込むには、男の手が優しすぎた。
話す間も、男の機嫌が損ねられた様子はない。
ただ淡々と客観的に、己の事実を口にする。そこに感情はない。
否、ただゆるりと弧を描いた唇に惑わされて、自分には読み取れないだけだ。
どう言葉にしていいのかはわからない。
けれど目の前の男が、それでは、それではあまりにも、と思ったのだ。

「……けど、よぉ。それじゃ世界に独りきりってことだろぉ」

拙くも言葉にすれば、男は少しだけ驚いたように眉を跳ねた。
うつ向いていたから、それに気付けはしなかったけれど。
再び言葉を選ぶように視線をさまよわせ、逡巡したあとに、ぽつり。


「それって、淋しくねぇのかぁ?」


恐る恐る訊ねてみても、男は口元の笑みを深め、首筋をくすぐるだけだった。

fin.


(おまえはまだ知らないだろうが、俺のそばにはおまえによく似た奴がいるんだ) つーか本人だ。 << Back