<鮫の歯型 08.09.02>
REBORN!
XANXUS×スクアーロ


そこはかとなくえろす(そしてアホ)






また、だ。
表情に出すことなどせず、ほんのわずかに落胆し、ほんのわずかに苛立つ心を押さえつける。
指先に感じる男の肌に、馴染まない傷痕。
か細い、けれど確かな情事の名残。
この男に傷をつけるとは、毎度ながら女の肝も据わっている。
あるいは、この男を狙う女共の牽制の証だろうか。だとすれば実にくだらない。
そのくだらなさに波立つ自分は、更にくだらない。
自嘲に唇を歪めれば、ふいに男の突き上げが深まった。

「っぅ……」
「なにを考えてやがる?」
「なに、も……っ」
「ハ。ほざいてろ」
「あ、ァ…ッ」

掴まれた腰は痛いくらいで、痩せたそこは骨の擦れる鈍い音を立てる。
本気の相手などいないだろうが、散々女を抱いているくせに、男も喰らうとは悪趣味な野郎だ。
思いながら、その悪趣味に付き合っている自分は棚に上げた。
不愉快な傷痕から指先を逸らし、上腕に新たな傷を創ってやる。
もちろん男に血を流させる趣味はなかったから、わずかに引っ掻いた程度のささやかなそれだ。
何に気づいたのだろうか。
見下ろす男の赤い目は、ほんの少しだけ驚きに瞠られたように思えた。
だがそれも瞬きほどの一瞬で、再び意地の悪い笑みを貼りつけた男は好き勝手に貪ってくれた。
まるで荒波にでも浚われるように、この男との情交には余裕がない。
情交、では少し言葉が異なるか。なんの情も交わしてはいないはずだから。
理性と意地とで押さえつけ、男に向かう自分の情には気づかない振りをしておいた。

「ボ、スッ……、も、ッッ…」

獣じみた荒い呼吸は骨まで溶かし、どろどろに渦巻く欲求を連れてくる。
手を伸ばせば届く距離にあるそこへ、けれど男の許しなしには辿り着けない。
いつから支配されているだろう。
自分ばかりが奪われて、奪い返すことなど叶わない。
それでいいのだと思わされるから、なおいっそう質の悪い。


汗ばんだ肌も。
聞こえる吐息も。
欲に濡れた瞳も。
押さえつける腕の強さも。
嘗めあげる卑猥な舌先も。
奥深く刻まれる、熱も。


どれもこれも与えられているようで、その実なにひとつこの手には残らないのだから笑えない。
それを惜しいと思うのではなく、他の誰かにも与えるのかと思えば鎮めたはずの心がまた騒ぎだす。
この感情の名は知っている。
知っている、けれど決して認めたくはない。


「もっ…、ァ、…ッ……!」


最後の最後、のぼりつめるその刹那。
敗けたままでいるのは癪で、つい噛みついたら殴られた。

fin.


「しし。ほっとんど死んでんじゃん、先輩」 「うっせぇ……出てけぇ、ここは俺の部屋だぞぉ」 「すぐ出てくよ、こんな狭いとこ。ただちょっとさー」 「狭くて悪かったなぁクソガキィ」 「絡むなよ。なー、昨日、ボスになんかサービスした?」 「ッ、は、あ゛あ゛ぁ!?」 「ウブなのもいい加減にしろよ先輩」 「てめっ、バッ、何……っ」 「ボスがさぁ。今朝から機嫌いいんだよねー。これは先輩が何かしたな、と」 「なっ、な……っ」 「まー先輩の様子見たら丸わかりだけどさ。しし、ゴチソウサマー、王子ちょー胸やけ」 「ベッ、待……っ…――――〜〜!!!」 << Back