― rainy chaplin ―
Dino×Hibari






雨の日は少しだけ感傷に浸る。

しとしと
しとしと

静かに降るイタリアの雨は
痕を残さない傷を幾つも描いて
頬を流れて堕ちていった。


「だから、何度言ったらわかるの?」

呆れた声音の雲雀が、
乾いたばかりらしいタオルをばさりと放って寄越した。
拭いてから上がってよ、と厭味を忘れないことに苦笑しつつ、
ディーノは濡れた髪を乱暴に拭ってリビングに消える背を追った。

「…勿体ないけど、コーヒー。ねぇ、そろそろ懲りた方がいいよ」
「ん?」
「いつもでしょ。こういう寒い日に雨に打たれて、次の日唸ってるの。」

看病なんかしてあげないよ、と唇を尖らせたところに不意打ちのキス。
馬鹿じゃないの、と罵る唇が、けれど珍しく笑っていた。

「…なんか痛ぇんだよな、雨の日は」

滲むディーノの言葉に、雲雀が視線を窓の外へと向ける。

「淋しがりだね」
「…黙れよ」
「変な意地張って雨の中濡れて風邪引いちゃ、ボスの名が泣くよ」
「黙れって。」
「んっ…」

嫌な形を刻んで笑う唇を塞いで、絡まる舌が確信犯。
すぐに首に腕が絡まって、頼りない体温が今日は熱い。
指先を滑らせた肌は、すでに欲をはらんでいた。


「あ……ディー、ノっ…」

口付ける間に名を呼ばれ、求める舌が激しさを増す。
耳に残る水音も、視覚への暴力に近い濡れた表情も、すべてはこのときのためであって。

「…恭弥」
「んっ……ぁ、あッ…」

求める声を聴いてしまえば、あとは逆さに落ちるだけで。




「…不器用だね、あなたは」

情事の後。
ベッドに伏せたまま窓の外を見遣る雲雀がディーノを見上げてそう言った。
ぼんやりと煙草を燻らせながらそんな雲雀を見下ろして、

「……かなわねーなー」

苦笑が滲む声音に、なにがおかしいのか雲雀が笑った。

「僕は嫌いじゃないけどね」
「…誘ってんのか、バカ」

冗談混じりに返しつつ灰皿に煙草を押し付けたところで、
ひどく緩慢な動作で半身を引き起こした雲雀が唇を掠めた。

「…雨の日くらいは、甘えてあげてもいいよ」

笑う唇が、艶やかで。
求められて、それに応えないはずもなく。

「……………き、だ、恭弥」
「…知ってるよ」

満足そうに笑う雲雀に、今度は自ら口付けて。
乱れたシーツに、再び沈んだ。


雨の日は。

ほんの少しだけ淋しくて
ほんの少しだけ痛いから

だから、どうか

言葉にしなくても伝わって
君だけには伝わって

触れる温もりが愛しくて
きっとまた歩き出せるから

いまだけはただ
こうして、肌を重ねていて。


fin.


06.11.11 << Back