― baby, I love you. ― Belfegor×Mammon 叶わぬいつかの夢を見る。 例えばほら、 膝の上に抱え込めるっていうか、 むしろ手乗りサイズって感じのあいつが大きくなって、 いつのまにかオレと背比べ出来るくらいになって、 だけどやっぱオレのが高くて悔しがるあいつの顔が見たいとか、 そういうの全部、すげえ楽しみにしてた。 『ベルは馬鹿だね』 『は?どっかの鮫と一緒にすんなよ』 『…そういう意味じゃないよ』 『じゃあなんだよ』 『わかんないなら別にいい』 『……あ、そ。』 そういえばあのときのあいつはまるで泣きそうな顔してて もしかしたらオレは気付かないふりをしたかっただけかもしれないけど。 秋の空は移ろいやすい。 つい先ほどまで頭上にあったと思った雲はもうそこらに散っていて、眩しいと思っていた陽射しもすでに傾き始めていた。 屋敷の周りを囲む背の高い木々は色を変えることもなく、それが余計に淋しかった。 もうどれほどを数えるだろうか、綱吉への口利きがてら出向いた先のジャッポーネは、この時期は鮮やかな原色に彩られていた。 燃えるような紅葉はなんだかあいつの手のひらそっくりで、 『なぁ、あれとおまえの手、どっちがでかい?』 『………ベル、そんなに僕を馬鹿にしたいのかい?』 『しし、純粋なコーキシンだよ』 『ベルが言うと信用ないよ』 無理矢理に比べてみた手は、葉の育ちが良かったのだろうか、それほど大きさに違いはなかった。 フードの下、悔しそうな顔をしていた気がする。 『ま、そのうちでっかくなるんじゃね?』 『簡単に言ってくれるね』 当たり前が当たり前じゃなかったあいつは、そういえばどんな気持ちでいたんだろう。 絶対に来ると思っていた「いつか」は、もしかしたら狂おしいほど欲しくてたまらないものだったかもしれない。 今では、知る術はないけれど。 薄闇が空を覆い、ざわめく木々の音が耳障りになる頃。 頬を撫でる風はやけに冷えて、もう幾ばくも経たないうちに、息は真っ白に曇るんだろう。 肌寒く感じるのは、いつもこの手に抱いていたはずの温もりがないから。 指先を握りしめる、小さな手のひらがないから。 「……マーモン」 呼んだって、小生意気な声は返らない。 聞こえるのは風が奏でる気まぐれな木々のざわめきと、情けなく掠れる自分の声と。 それから、痛いくらいの静寂。 欲しい音はそこになくて、鼻の奥がツンとして、瞼が熱くて重くなって、喉は勝手に震えだす。 「マ……モン…ッ」 だって約束したんだ。 「いつか」。 「いつか」って。 いつもみたいにあいつを膝に抱きながら。 小さな体をぎゅうぎゅうに抱きしめながら。 『ねぇベル』 『なんだよ』 『僕がおっきくなったらさ、』 『ん?』 一番にベルを抱きしめてあげるよ。 fin.
08.02.15 メルマガ再録。 << Back