おしおき。      10.11.09




どさりとベッドに投げ出され、瞬間息の詰まったエースは圧し掛かってくるマルコの身体に慌てて両腕を突っ張った。
その仕草に不機嫌そうに眉をしかめたマルコは、エースの両腕を頭上でひとつに束ねてしまう。
ようやくマルコの心底の不機嫌を悟ったエースが、必死で足をばたつかせる。

「ちょっ、なんで……ッア、マルコ、あいつ助けに行かないと…ッ」
「ハ、馬鹿言ってんじゃねェ、放っといても平気だろい」
「ば、か…!あんたの蹴りマトモに食らったんだぞ、平気なわけ……ッあ、ァ…!」
「他の誰かのことなんか気にしてる余裕あんのかい」

ねろりと喉元を這った舌の生々しい感触と、とがめるように立てられた歯の鈍い痛みにエースは肩を震わせた。
はあ、と後を追うように濡れた肌にかかった吐息に息を呑む。
喉元は、いまではもうすっかりエースの性感帯だ。
くすぐったがるばかりだったエースのそこを、マルコが抱く度に愛撫し覚え込ませたからだ。
素直に嬌声を上げることを教え、マルコの思うようにエースが鳴けばいい子だと褒めて快楽を刷り込み、
やがてそれが自然なことなのだとエースが勘違いするほどに。
エースの身体に、マルコが触れていないところなど、もうひとつも残っていない。
全部全部、マルコのものだ。
いまさら言われなくたって、エースが、エースの本能が、それをなにより知っている。

「あ、やだ、離せよ…ッ」

するりと性急にハーフパンツのなかへ滑り込んできた大きな手に、エースは腰を捩った。
緩く反応していた熱をきゅうと握り込まれると、否応にも先を期待して腰を揺らめかせてしまう。
マルコの手を借りて自慰でもするようなエースの動きに、マルコはぺろりと舌なめずった。
嫉妬に煽られて揺らいでいた青い瞳に、まるで獣のような鋭さが宿って、エースの背を震わせる。
この目を、エースは知っている。
何度も何度も、エースを狂わせ、泣かせ、屈服させてきたマルコの目だ。

誰かに頭を垂れようと思ったことは一度もない。
けれどマルコだけには、そんな意地が通じたことがなかったのも事実だ。
懐柔し、甘やかし、ときに責め立てて、マルコは自分が欲するものを確かにエースから奪っていく。
言葉であったり、態度であったり、その時々によってマルコの求めるものは違ったけれど。
最後までマルコに奪われずにやり過ごせたことなど、エースの覚えている限りでは一度もないのだ。

「ッヤ、だって、言って……!」
「嘘つけよい」

こんなにしやがって、と窮屈な布地の下でマルコの手がエースの熱を弄ぶ。
ぬるりとその手を濡らすのは、他でもないエースの体液だ。
とろとろとはしたなく蜜を零す己に歯噛みするけれど、マルコの手が与えてくれる快楽には逆らえない。
脚を閉じようともがくのに、圧し掛かるマルコの膝がそれを許さない。
ぐいと広げ、恥ずかしい格好で無防備なそこを晒してしまう。

「このまんまじゃ、染みになっちまいそうだなァ」

ひく、と震えるエースの腹筋に視線を落としながら、マルコは意地悪く吹き込んだ。
ぎろりと険のこもった視線を鼻で笑って受け流し、ほんのりと赤く染まった耳朶に歯を立てる。
そのまま耳孔に舌を捻じ込んで、卑猥に濡れた音をエースに聞かせた。

「ッあ、ァ、ヤ……!」

ちゅぷ、とふだんは聞かない音を無理やり鼓膜に叩き込まれて、熱く濡れた感触に皮膚の薄いそこを擦られて、
快とも不快ともつかない感覚にエースの腰がゆらりと浮いた。
それを見計らったように、相変わらずエースの感じるところばかりを弄っていたマルコの手が、きゅうと嚢を揉み込むように悪さする。
予期せぬ突然の刺激にエースは目を見開き、びくんと大きく身体を跳ねて爪先を引きつらせた。

「ッ、ァ、―――…!」

達するには足りない、けれどぎりぎりまで追い上げるその仕草に、エースはねだるように腰を押しつける。
もうすこし。
あとひとつ与えてくれたなら、この熱を散らすことができるのに。
けれどそんな浅はかなエースの願いを、マルコはあっさりと突き放すのだ。

「あ、ッなに…!」

するりとエースの熱を離れたマルコの手に、ついすがる視線を向けてしまう。
その先で、ぬるりと粘着質な体液に濡れたその手をマルコの赤い舌がねろりと舐めた。
エースが汚したその手を拭うように舐め上げていくその動きに、思わず瞠目してしまう。
次いで、羞恥とも期待ともわからない疼きがぞくぞくとエースの背を駆け上がっていく。

「なに、して……っ、」

エースが最後まで口にするより早く、マルコの手がエースの乳首をぬるりと這う。
とがったそこを押しつぶすように濡れたその手が動き、かりかりと引っ掻くように刺激して、じゅ、と音を立ててマルコが吸いつく。
一度は追い上げたくせに焦らすようなその愛撫に、じわりとエースの目に涙が浮かんだ。
足りない、のだ。

「いや、だ、やだ、マルコ…!」

もっと。
そうねだろうとしたエースの乳首に、マルコがきりと歯を立てる。
走った痛みにエースが呼吸を止めると、またいたわるように舌を這わせて、マルコはゆっくりと顔を上げた。

「ッん、マル、」
「……言ったろい、エース」


――――― "お前が誰のモンか、じっくり教え込んでやるよい"


「……今日は仕置きだ。イかせてやらねェ」


せいぜい泣いて、善がって、おれにねだれ。
そうしたらすこしは自覚するだろい、と、くだされた宣告はここ最近では一番に意地が悪いもので。
ちかちかと目の前が点滅するような感覚に陥りながら、このまま気絶できたなら、とエースは遠く願ったのだった。


fin.


不死鳥に蹴られるSSを書いてもらったのでその後のおしおき編。
続きはきっと書いてくれると信じて…!笑

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