Two Is Better Than One      10.03.31 10.05.17掲載




荒い呼吸は確かに己のもののはずで、けれどやけに耳に遠い。
ぼんやりと滲む視界、眦が熱いのはきっと流れた涙のせいだ。
宙に視線をさまよわせるエースの前髪を、さらりと優しい指が梳いた。
それから、露わな額に唇が落ちる。
マルコ、と、そう呼んだ声は情けないほど甘く掠れて、
困ったように笑うマルコの吐息がなんだか恥ずかしかった。


<Two Is Better Than One>


濃密な甘い夜は、愛しい時間だ。
形ばかりの抵抗を示すエースを意地の悪いマルコの指がとろとろに蕩かして、
甘やかして、ぐずぐずに溺れさせてしまう。
苦しい、と伸ばされる手を取って救い上げながら、更なる淵に追い込んで溶けだした熱を愛おしむ。

きもちいい、つらい、こわい、………でも、もっと。

そうエースが泣いてねだるのを、マルコはちゃんと知っているのだ。
ぎりぎりまで引きのばして、遠ざけて、けれどエースが耐え切れずに辛い涙を流す前に、
マルコはすべてを許して与えてくれる。
ようやく得たそれにエースが子供のようにしがみつくことも、一から十まですべて計算尽くだ。
マルコがそうまで躍起になってエースを縛り付けていることを知っているのは、
彼と長く悪友をやってきた一部の隊長連中と、白ひげその人くらいのものである。
まだ年若い相手に無体な真似をと、そうたしなめる気のきいた仲間などいないけれど。

眠たげに、ようやく涙の乾いた目をこすったエースを、マルコがぎゅっと抱きしめる。
寄り添った温もりにエースがほうと息を吐いて、表情を和らげる。
そのエースの安心しきった表情が、マルコは好きだ。
マルコにしか許されていない表情であるのを、もちろん彼は知っている。


「もう寝るかい」
「ん……」


もぞもぞと寝心地のいい体勢を探しながら、エースはマルコの腕の中でもごもごと何事かを呟いた。
聞き取れない、意味を持ってすらいない言葉だけれど、
マルコは律義にぽんぽんと背を叩いて、わかった、と伝えてやる。
その仕草に満足したのだろうエースがうとうとと眠りに就くのへ、
促すように髪を撫でるマルコの表情もまた、エースの前でしか許されていないそれだ。
「おやすみ」と告げる声でさえ、いつもよりずっとやわらかい。
エースしか知らない、マルコの特別だ。


眠りに落ちたエースの頭を撫でて、寒くないようにと甲斐甲斐しくシーツを引き寄せて、
鍛えられてはいてもまだ線の細いエースの身体をくるんでやる。
触れれば案外やわらかい頬を撫で、そこに散る幼い雀斑を親指の先でくすぐった。
わずかに開かれた唇からすうすうと乱れなく紡がれる寝息に、だんだんと瞼が落ちてくる。

ざざ、と近くも遠くも聞こえる波の音。
今夜は満月だろうか。月が明るい。
明日にはもう、春島に着く。
きっと今頃は春の花が満開だろう。
夏島でよく見る太陽を模した黄色い花が彼にはとても似合いだけれど、淡い桜色も似合うのだ。
楽しそうに笑っていてくれたなら、それでいい。

きっとイの一番に駆け出していくだろう奔放な彼を追いかけるのは、いつもながら自分の役目だ。
仕方がないと諦めるような、けれど望んでもいるような、苦笑に似た溜息をひとつ。
傍にある温もりを抱きしめて、マルコもまた、眠りに落ちた。


fin.


10.03.31〜10.05.17WEB拍手掲載
title:Boys Like Girls

歌詞的には失恋かもしれませんが
「Two Is Better Than One」という言葉がとても好きです。


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