※大学助教授マルコ×高校3年生エース。 でも前編じゃまだマルコ出てきてなくてすみません。 春、桜の降る下で。 ……なんて、ロマンチックな出逢いじゃなかったけれど。 <階段から落ちる (前)> 「で?どうするんだ進路」 「だから、今いるショットバーでバーテンやるって」 「うちはバイト禁止だってのに何遍言わせやがるポートガス!!」 「やーだぁー、スモーカー先生ったら怖い〜」 「シナをつくるな気色悪い真面目に聞け!」 こめかみを引き攣らせる担任教師の前、エースは悪びれもせずにあははと笑う。 センター試験まであと二週間と差し迫ったこの時期に、まともな進路希望を出していないのは当然ながらポートガス・D・エース、彼一人だった。 幼少施設に始まり初等部から高等部まで一貫教育のこの学園だが、大学部だけは別運営で入試が必要なシステムだ。 十月に推薦入試があるほかはセンター試験も後期試験もなく、三月初めの一回こっきりの入学試験で有名である。 スポーツ万能、成績も決して悪くない彼をこの時期まで放っておくとは何事だ、と理事長であるセンゴクにどやされたスモーカーは、 実に不本意ながらもう数えることすら放棄した何十回目の個人面談の場を設けたのだった。 しかしながら元来のらりくらりと人をかわすことに長けているエース相手にこのテの話が進むはずもなく、すでに一時間を経過していた。 「きちんと考えろポートガス。スポーツでも勉強でもおまえは大学に進むのに十分だ。 やりたいことが見つからないなら探す時間にも充てられるだろうし、安易な判断だけはやめておけ、おまえに後悔は似合わなそうだ」 別にバーテンダーを極めたいわけでもないのだろうと言われれば、エースも苦笑するほかない。 片手間と言ってはマスターに失礼だが、道楽でありアルバイトの域を出ていないのは事実だ。 何十何百あるかわからない酒の種類を覚えるのは早々に諦めたし、既に味は知っているが大っぴらには飲み歩けない年齢である。 客と話すのも、間接照明にきらめくグラスも、綺麗な色の酒も好きだけれど、仕事にしたいかと言われれば別だ。 スモーカーの言うように、正直、自分のやりたいことが見つからない。 器用貧乏とでも言うのだろうか、手のかかる弟がいたせいかもしれないが大抵のことは人並み以上に出来てしまったから、 特別なにかに打ち込むということはなかったように思う。 身体を動かすのは好きだ。黒板を眺めていると眠くなるけれど、頭を使うのもそんなに苦手ではない。 なにが好きかと言われれば、食べることと眠ること。それから、弟と戯れることだろうか。 他になにかを望んだことがなかったから、改めて訊ねられると答えに詰まるのである。 探すふりをして先へ先へと延ばした結果がこれだ。 気がつけばもうあと三ヶ月で卒業である。 人と社会の波をひょいひょいと渡っていくだけの器用さには自信があったから、流れるままに流れてもいいかと思っていたのだが。 事実、養い親は「金はあるから好きにすればいい」と実に豪気なものである。 生まれた直後に両親とは死別しているので、もう十八年も世話になっている計算だ。 そう思えば家を出て、迷惑にならない程度にその日暮らしを楽しめればいいとも思う。 ……弟の猛反対にあうだろうことは、予測というか確信に近いが。 (もしかすると養い親も嫌がる、かもしれない) つらつらと考えながら、エースは泳がせていた視線を目の前の男に戻す。 四六時中、手離さないはずの葉巻すら咥えていないスモーカーは、エースがなんらかの答えを出さない限り部屋から出してくれそうにない。 困ったな、放課後はシュライヤと約束していたのに。 先ほどからポケットの中の携帯がぶるぶると震えている。 きっと年上の恋人の愚痴に付き合わされるのだろうけれど、代わりに奢られるファストフードは健全な男子高校生にとってはごちそうだ。 逃すのは、なかなか惜しい。 また視線を逸らすふりで、ちらりと逃走経路を確認する。 進路指導室を階段のすぐ前に作ったことと、出口に近い方に自分を座らせたことは最大の失敗だ。 ぺろり、唇をひと舐め。 ……さて、そろそろおさらばしようか。 next.
10.01.08〜10.02.06WEB拍手掲載 title:xx 拍手に置くには思いがけず長くなったので途中で切って前後編。 << Back