※高校生キッド×大学生ロー パロ注意 PENICILLINを引きずってるのででろ甘いです。 だめだ、眠ィ。 ミミズがのたくったような数列が並ぶ黒板を眺めながら、キッドは大欠伸をした。 外はもう寒いけれど綺麗に晴れていて、サッカーでもしたら気持ち良さそうだ。 確かキラーのクラスはこの時間体育だった気がする。 羨ましい話だ。5限目の数学ほど憂鬱なものはない。 キッドの席は一番後ろの一番窓際、いわゆる特等席というやつだ。 席替えで争われるその席を、キッドはもう半年以上も占領し続けている。 裏から手を回しているだとか、当たった生徒から脅し取っているだとか、あまり良くない噂が流れているがどうでもいい。 紛れもなく事実だからだ。 表だってキッドに歯向かってくる勇気のある輩は、残念ながら今のところ居なかった。 キッドとは正反対に位置する、教室の後ろの扉のすぐ横の席では、ジュエリー・ボニーが菓子を片手に夢の世界へと旅立っている。 彼女もまたキッドと同じく、その席を占領し続けていた。 理由は至極単純明快、食堂へ走るのには実に都合の良い席だったからだ。 事実、半分ほどが齧られたその菓子は、昼休みに数量限定で販売される瞬殺モノの菓子だった。 気に入っているのか、この数週、毎日のように手にしているのが見受けられる。 ボニーからその菓子を分けてもらったルフィが、南高に転校したいと言っていたのを思い出す。 食い意地の張った二人は、キッドの知らないところでずいぶん交流があるようだった。 ごほん、とわざとらしい咳払いが聞こえた。 気が弱いくせに威厳だけは保ちたいらしい中身も髪も薄っぺらい冴えない眼鏡の中年教師は、 キッドの視線ひとつで肩をびくつかせるくせに、こうして突っかかってきたがるのだ。 最近は相手をするのも面倒で、キッドはこれ見よがしに教科書を閉じると顔を外に向けて頬杖をついた。 数学は嫌いだが、教え方の上手い相手を一人知っている。他でもない、同性の恋人である。 赤点どころか赤座布団を地で行っていたキッドだが、彼に教わるようになってからクラス平均は確保するようになっていた。 授業など聞いていなくても問題はない。 「ここはテストに出すぞ」と、少々ヒステリックな声が耳を素通りしていった。 黒板には相も変わらず、象形文字と化した数字と記号が所狭しと並んでいる。 ノートを取る真面目な生徒も、そろそろうんざりしてきたようだ。 授業の終盤くらい手を抜けば良いのに、教科書を先へ先へと進もうとするから駄目なのだ。 このままでは5限の後の短い休み時間もギリギリまで使われそうである。 先ほどまで眠っていたボニーも腹が空いたのか目を覚まして、時計と睨めっこしながら菓子の続きを頬張っている。 その横顔は実に不機嫌そうだ。 休み時間を削られては、食堂へ買い出しにも行けないのだから当然である。 やはり午後はサボるのだったと溜息を吐きかけたところで、尻ポケットの携帯がぶるりと震えた。 三度短く震えて止まったから、電話ではない。メールだ。 キラーが相手なら6限はサボって遊びに行こうと誘ってみよう。 そう思って開いたディスプレイには、思いがけない相手の名前が表示されていた。 『いま帰った。来るなら勝手に来い ロー』 たった2行の無愛想なメール。 このところ大学の研究が忙しいだとかで、ゆっくりする機会のなかった恋人からだ。 邪魔をしてはと慣れない自粛をしていたせいで先日ようやく貰った合鍵にも出番はなく、キーケースのなかで拗ねていた。 けれど今となってはどうでもいい。 面倒臭そうな顔をする割にはキッドが訪れるとドアを開けてくれるから、また合鍵の出番はないかもしれないが。 困った。 弛んでいた瞼はすっかり張ってくれたけれど、代わりに口許が弛んでいく。 そんな締まりのない顔を誰にも気づかせてやるわけにはいかないのだ。 キッドは必死で表情を引き締める。 少々引き締め過ぎたのか、堂々と携帯をいじり出したキッドに再びの咳払いを聞かせようとした教師の顔が 引き攣って脅えていたけれど、そんな姿は当然キッドの眼中にないのだ。 この可愛い年上の恋人相手に、なんて返事をしてやろう。 授業が終わるまであと三分。 元からない集中力が、完全に瓦解した瞬間だった。 fin.
09.11.26〜10.02.06WEB拍手掲載 title:xx 年下キッドはローさんに必死だと嬉しい。 << Back