「器用だなァ、ユースタス屋」 ぺたり、ぺたりとひとつずつ丁寧に彩られていく爪を見て、ベッドの上からローは溜息混じりに告げた。 よく眠っていると思ったのだが、さすがに少し窓を開けたくらいでシンナーの臭いはごまかせない。 いつから目を覚ましていたのか、キッドの爪はすでに左手の小指を残すのみだった。 <ゆびきり> 「てめェは外科医を名乗るわりには不器用そうだな」 「捌くのは得意なんだけどな。縫うのはちょっと」 「ヤブ医者の常套句じゃねェか」 キッドの揶揄に、ローは少しかすれた声で笑う。 それはローが最中に聞かせる声と似ていて、燻った劣情を煽られた。 「なァ知ってるか」 「なんだ」 「極東の国で昔流行ったらしいんだけどな。遊び女が情を示すために小指を切って送ったそうだ」 「ハ。馬鹿馬鹿しい」 何を言うかと思えば、と鼻で笑って、キッドは最後の爪を毒々しい赤色で塗り潰してしまう。 指先を汚すことなく尖った爪だけを綺麗に仕上げてぴらぴらと振ってみせるのを横目に、ローは高く積まれた枕に顔を埋めた。 ふわりと鼻に届いたのはキッドの使う香水と、それから少し、汗の臭い。 興奮するには十分だ。 そのまま呟くものだから、くぐもった声はキッドの耳には届かない。 「ア?なんだ、トラファルガー」 「なんでもねェー」 ユースタス屋の小指が欲しい、って言ったんだ。 キッドには見えないように舌を出す。 それからふと真顔になって、女が小指をやるのなら自分がその立場にあることに気がついた。 自分の小指をやるのに抵抗はないけれど、あの綺麗な指先も自分のコレクションに是非欲しい。 ユースタス屋の船におれの小指。 おれの船にユースタス屋の小指。 船長室にでも置いておいたら、航海中の淋しさも紛れるかもしれない。 考えたらなんだか愉しくなった。 「なに笑ってんだてめェ気持ち悪ィ」 「ひどい褒め言葉だなユースタス屋」 「………このド変態が」 「うるせェこのドエロ」 とりあえずは爪痕を残すだけにしておこう。 もうしばらくは綺麗な指先が10本綺麗に揃っているのを見ていたい。 思って、逆上したキッドに再び押し倒されるのを他人事のように見上げた。 (怒った顔も綺麗だなユースタス屋!) fin.
キッド氏の爪って何色なんですかねオーソドックスに黒でしょうか捏造してすみません。 09.01.20〜09.02.06WEB拍手掲載 title:蜉蝣 << Back