暑い。苦しい。重い。
ベポが寝惚けて潜り込んできたにしては柔らかくない。むしろ硬い。
第一、こんなぎゅうぎゅうに抱きしめてくる野郎は一人しか知らない。
今夜の寝ずの番は誰だったろう。
明日の朝にはにっこり笑ってご挨拶してやらねば気が済まない、と物騒なことを心に決めつつ、ローは溜めた息を吐き出した。


<the FOOL>


「どっから潜り込んできたんだ、ユースタス屋」
「場所がどこだろうが忍び込むくれェ訳ねェに決まってんだろう。おれを誰だと思ってんだトラファルガー」
「おれに頭のイカレたクソ野郎だと思ってる」
「てっめェ……!」

ふざけんな、と語気を荒くしながら、抱きしめる腕の力が強まるのはどういうわけだろうか。
まぁおれもおまえに頭イカレてるけどな、とはローの胸中だけの言葉だ。
まったく少しからかったくらいですぐに青筋が浮かぶのだから、どれだけ血管が丈夫なんだと訊ねたい。
これがまた好みの形をしているから、是非サンプルを頂きたいものだ。
ちょっと斬りつけたくらいじゃ肌も裂けやしないんじゃないか、なんて、それじゃ生身の人間じゃねェな。
生身の人間でありながら、海賊に身を堕とし悪魔の実を口にしたそのときに、
人間としての良識やら常識やらはどこかそこらへ棄てたローだ。
悪名高いこの相手もきっと同じなのだろうと思うと、少しおかしかった。

「しっかし、脚冷てェなァ、トラファルガー」

ごそごそとローを抱え込む形になったキッドが、ぴたりとくっついたまま耳元に吹き込む。
吐息が触れるのにぞくりと背を走るものを感じながら、ローが皮肉そうに嗤った。

「うるせェな。冷え性なんだ」
「医者の不養生とはよく言ったもんだな」
「だからうるせェ……って、何してんだユースタス屋」

突然ローを組み敷いたキッドに、瞳を険しくしたローが訊ねる。
眠いからヤらねェぞ、と釘をさせば、にやりと嫌な笑みを張りつけたキッドが毛布へ潜っていった。

「ヤらねェって言ってんだろが……おい、」

毛布を捲って制止を促すと、冷たいと文句をつけたばかりのローの脚をむんずと捕まえてキッドが言った。

「舐めてやろうか」
「は……?」

ぽつりと寄越された言葉の意味を、ローは瞬間理解しかねる。
はっきりと頭に届いた後、滅多なことでは慌てないローが、掴まれた脚を引き戻そうともがきだした。
けれどそれよりも強い力で、キッドの方へ引き寄せられる。

「ッに考えてんだユースタス屋!はな」
「てめェのこと考えてる」

放せ、と言い切る前に遮ったキッドが吐いた台詞は、先ほどのローの台詞への意趣返しだろうか。
ばさりと毛布を剥がして身を起こしたキッドが、ローの脚を掲げてまるで頬ずりでもするように顔を寄せる。

「誰が殺し文句なんか吐けっつった……ッァ、」
「指の間、弱ェもんなァ、おまえ」

ローの青白い肌に、キッドの赤く濡れた舌が映える。
ぬるりと指の間に舌を這わされて、拒んだはずの官能が首筋を撫でた。
冷え切った脚の指先に、キッドの熱い舌は毒だ。
感じたくもない体温が強引に移り入ってくる。
まったく、今日はもう眠いってのに。

「眠いだァ?まいど隈つくってる奴が言えた台詞じゃねェよ、トラファルガー」

よく眠れるようにしてやるから、付き合え。
ちゅう、と親指を吸い上げながらキッドがのぼらせた台詞に溜息をひとつ。

「安眠できた覚えはねェよこのゴーカン野郎」

ぴきり、浮かぶ青筋はやはり綺麗で、やっぱりサンプルが欲しいなぁと眺めつつ、
続く文句は口に突っ込んだ脚の先で止めてやる。


「……好きにしていいぞ、ユースタス屋」


薄い笑みで堕ちる男なんかおまえくらいだ。

fin.


(リトマス紙みてェだなァ、おまえ) ちょっと頑張ったところでキッドはローに勝てないと思う。 09.01.13〜09.01.24WEB拍手掲載 title:ナイトメア << Back