慣れた野郎だ。
根元まで呑み込まれた指で内壁を探りながら、キッドは奇妙な苛立ちを覚えた。
海賊相手に貞操がどうだと説いてもお門違いだが、ずいぶんと奔放らしいローが恨めしくもなる。
それが嫉妬と呼ばれるものであるのは頭の隅で理解していたが、意味を飲み込みはしなかった。

「っァ、あ……」

指先が決まった一点を擦る度、ローは高い声で鳴いた。
そこじゃない、と言っていた理由がよく分かる。
喘ぐローのペニスはしとどに濡れ、戒めていなければすぐにでも達しそうなほどだ。
ジェルは指を咥え込んだ後孔から腰を伝ってシーツに滴り、卑猥な滲みを描いていた。
ぐちゃぐちゃと粘着質な音は耳障りで、けれど興奮を煽るには十分だ。
悦楽に歪むローの表情がそれに拍車をかけていた。

「なァ。どんくらい慣らしゃ入るんだ」
「ア…?」
「てめェと違って野郎と愉しんだこたァねェんだよ」

ローは一瞬言葉の意味が分からないように眉を寄せて、解したらしい後にはやけに愉快そうに白い歯を覗かせた。

「は……っ、おれと違って、か……フフ……」
「まだ足んねェか?」
「あ、ッ……!い、い……っ、も、」

寄越せよ。てめェの。
吐息に乗せて呟くのに、遠慮はいらないらしかった。

「ッぁ……――――!」

高く長く、掠れて尾をひく。
眉を寄せ、酸素を求めて喘ぐように喉をひくつかせながら、ローは腰を掴むキッドの手に爪を立てた。

「き……っつ、」

入り口は驚くほど狭かった。
指で開いたそこへ先端を含ませたはいいが、それ以上はどうにも拒まれる。
息詰めんな、と思わず唇を噛んで言えば、わずかにローの呼吸が弛む。
見計らって腰をすすめれば、ゆっくりと、けれど貪欲に、ローはキッドを呑み込んだ。

「は……、ッんだよ、ご無沙汰か?」
「ん…っ、るせ、ユース……」

からかうような声音は気に入らなかったのか、ローの眉が別の意味で寄せられた。
無駄口は叩くな、とでも言いたげな視線を浴びせられる。
その表情にさえ喉が鳴って、キッドは苦笑を刻むほかない。

「な、に……興奮してんだ、変態」
「てめェにゃ言われたくねェ」
「あ……っ」

ゆさ、と掴み寄せた腰を揺すれば、びくりと肩を跳ねてローが高い声を上げた。
どうやら先ほど見つけた場所に当たったらしい。
キッドの口角が凶悪に上がるのを、ローは薄く涙の張った眼で見上げた。




「う、ァッ……あ、や……!」

ぽたり、キッドのこめかみを伝った汗がローの胸元に落ちる。
ローが背を預けたシーツは散々に乱れて、既に使い物にはならないありさまだ。
古いベッドは二人分の重みを受けて軋んでいる。
ローの左手はシーツを握りしめ、右手は腕ごと口許を覆っていた。
キスが出来ねェ、と、キッドは揺さぶりながら不満に思う。
上気した頬はたまらないし、生理的なものなのか知らないがその頬を濡らしていく涙がまた壮絶な艶を醸している。
その濡れた瞳が見てみたいと、キッドはきつく閉じられたローの瞼をべろりと舐めた。
ひ、と引き攣った声を上げて、ローが薄っすらと、青鈍と榛が混じった瞳を覗かせる。
目尻に残った涙にも舌を伸ばして舐め取り、そのまま耳にも舌を這わせれば、くすぐってェ、とローが笑った。

「腹筋震わせんな。響く」
「……セクハラ屋」
「エロ外科医」

笑うなと言うのに、ローに聞く気はない様子。
まったく、甘さの欠片もないベッドだ。
濡れた瞳も唇も、ひどく何かを訴えかけてくるのに、そこには媚びのひとつもない。
媚びはしないのに、淫らに誘う。
アンバランスな危なっかしさは、そのままローの色香に繋がっていた。


「……黙れ、っつってんだ、トラファルガー」

右腕の外れた、笑みの形に歪んだままの唇に噛みつく。
キッドよりも先、ぬるりと歯列をなぞった舌がやはり憎らしかった。

next.(R-18)


あと2、3で終わります。 << Back