あと五分したら帰る。 そう言ってごろりと寝返りをうったユースタス屋は、その言葉が頭から嘘なのだと分かるような健やかさで寝息を立て始めた。 髪、は、下ろすと案外さらさらしている。 眉毛、は、ああ、やっぱ剃ってんだな。メイク落とすとちょっと痕が見える。 口紅――……は、風呂入った意味ねェだろうが。落とせよ。 枕に痕つけたらただじゃおかねェ。 せっかくベポが朝早くから真っ白に洗ってくれたってのに。 奇縁、とでも呼ぶのだろうか。この関係は。 諸島というだけあって広く数の多い、番号分けされたこの島々。 最初の夜以来えらぶ店も歩く場所もまちまちだというのに、よくよくかち合ってはクルーの目を盗んでてめェの船やらいかがわしいモーテルやらで身体を重ねる日々が続いていた。 急ぐ必要はない航海、だが、もたもたとしている余裕があるわけでもない。 それほどこの身体が名残惜しいわけでも、出航できない理由が己やクルーにあるわけでもない。 この退屈な島が気に入ったというわけでも勿論ない。 船のコーティングは済んでいる。 食糧と水を積み込んだならすぐにでも発てば良いものを、ぐずぐずと引き延ばしている理由はローにも分からなかった。 夜も更けきった時分、クルーが残らず島の方々に散っているのを十分すぎるほど見越したうえで、今夜の悪い遊び場に選んだのはロー自身の船だった。 小回りがきかなくなるからと贅沢なほどには船を大きく造っていないが、それでも船長であるローの部屋はそれなりに広い。 ロー一人では余りあるベッドが、ガタイの良いキッドが手足を広げて眠れば少々狭くも感じられた。 普段は整然と片づけられた部屋のその床に、キッドのトレードマークとも呼べる赤いファーのコートが落ちている。 起きたら型崩れするってうるせェだろうなァ。 容易に想像はつくのだが、拾ってかけてやろうという気もなかった。 「……なァ、ユースタス屋」 そろそろ飽きねェか。 おれも、おまえも。 応えのない問いを静かにかける。 始まりのきっかけはなんだったろうか、もうよく思い出せない。 女に飽きたからとか、他に暇を潰せることがないとか、そんなくだらない理由だった気がする。 一度で終わる、とたかをくくっていたのはどちらの方だったか。 (いっそ棄ててくれりゃァいい) どうも自分からは終われないようだ。 気がついて愕然とする。 最もいらないと思っていたはずの感情が目を覚ますその前に、棄ててくれよ、ユースタス屋。 心に思ったその声が聞こえたとは思わないが。 「……馬鹿か、てめェ」 棄ててなんかやらねェ。 思わずローが目を瞠るに値する、耳に届いた不機嫌な低い声。 寝言にしては、ずいぶんはっきり聞こえた声だった。 (愛の告白なんざ、ガラじゃねェよ) fin.
脳みそがキドロフィーバーでどうしようもないです。 title:DOGOD69 << Back