ひとつひとつ、傷をなぞる。 薄っすらと痕を残すばかりの古傷から、まだ赤く生々しい傷まで。 男の体にはいくつでも見つけることができる。知った傷も、知らない傷も。 そうして知らない傷をひとつ見つけるたび、新しい傷を贈ってやるのがキッドの好む行為だった。 「ッ、ァ」 がり、と案外綺麗に整えられた爪が船室の壁を引っ掻いた。 ふわふわと頬を撫でる、無造作に伸ばされた髪をかき分けて耳に噛みついた、その結果だった。 後ろから犯されるのに弱いのは、彼の性質が猫に似ているからだろうか。征服欲を煽られる。 いつ付けたのか知らない、首筋に細い傷。 キラー自身気づいていないだろう。キッドだから気づけた傷だ。 耳の裏をぞろりと舐め上げた後、噛みついた耳朶へ吹き込むように低く名を呼ぶと、キラーの肩がびくりと震えた。 「キ……ッド、」 意地が悪い、となじる声は吐息混じりだ。 指先で唇に触れれば仕返しとばかりに噛みつかれる。 けれどその後かならず舌でなぞるのだから、まったく男も自分に甘い。 たまには思いきり噛みついてみせればいいのに。 「くすぐってェよ」 「っ……!」 ゆるゆると指を這う舌に焦れて、ぐいと深くまで差し込んだ。 瞬間苦しげに息を呑んだキラーが、再び噛みつこうとするのは腰を揺すって阻んでやった。 戦闘のときさえ滅多に乱れない呼吸を乱してやるのは気分がいい。 柔らかく熱い、弾力のある舌を好き勝手弄んだ。 「ふ、ッ……ん、ぅッ……」 キラーの指先がまた、忙しなく壁を引っ掻き始めた。 キッドを咥え込んだそこがひくりと蠢き、突き上げるたびに切なく締め付ける。 興奮しているのか、呼吸が不自由なせいかは分からないが。 ……あるいは、そのどちらでもあるかもしれない。 「……首、絞められた方がイイならそうするが」 あいつに躾けられたのか?と無粋な言葉で辱めながら、細腰を揺さぶるのはやめない。 鍛えられた身体を女と見紛うわけではないが、キッドの手で掴んでしまえるのだからやはり細いのだ。 浮いた腰骨をたどり、蜜の滴る昂りの先端をやんわりとなぞる。 ぬるりと濡れた感触は、浅い息を吐き出す口内と似て熱かった。 ふと悪戯心がわいて、張り詰めた根元を指で締める。 腕に触れていた腹筋が堪えるようにびくりと跳ねて、口に含ませた指先をキラーの舌ごと噛まれた。 「ばか、てめェで傷つくるんじゃねェ」 長い中指で上顎をくすぐって噛み締めを解くと、キッドはその指先に唾液ではないぬめりを感じて眉間に皺を寄せた。 またひとつ、キッドが付けたのではない傷が増えたのだ。 無意識に腰を掴む手に力が籠ったのだろうか、キラーが短く笑った。 「次は、どこに傷をつくる気だ……、キッド」 この野郎。確信犯か。 思わず舌打ちしそうになったのを堪え、キッドはキラーの首筋に噛みついた。 「てめェ、いつから仕置きされんのが好きになったんだ、キラー」 「仕置き、が好きなのはおまえ、だろう……っ」 きゅ、と地についた脚の指先を丸めてキッドの与える痛みと悦楽に耐えながら、口が減らないのは誰に似たのか。 いつもは口応えなどしないくせに、こんなときばかり口が達者なのだから憎らしい。 これだから猫はと、そう思うのだ。 「……いいぜ、キラー、好きなだけ罵れよ」 「つ……ッ、あ、ァ……!」 甘く掠れたテノールは耳に心地良い。思わず舌をなめずった。 そうして少しばかり乱暴にキラーの上半身を壁に押し付け、腰だけを突き出させてキッドが笑う。 「おまえがおれを罵るのと、同じだけおまえを鳴かせてやる」 そんな台詞と同時にやけに優しく背骨を唇でなぞられて、キラーもまた笑うのだ。 「おまえ、も……十分過ぎるほど猫だろう、キッド」 残念ながらそう聞かせた瞬間の、キッドの顔は見逃したが。 惜しいと思う間もなくやけに手酷く揺さぶられて、キラーは思考を放棄した。 fin.
忠実な部下の反抗期。 キッドさんがお仕置き好きになった理由→ローさんのせい キラーさんが息苦しくても興奮する理由→ペンギンさんのせい …だったらいいな! << Back