※キドロ・キラペン前提キドキラ




乱れたシーツに散る、薄い金色が綺麗だと思った。
ひとすじ指に絡め、くるくると弄ぶ。
昼間から実に不健康な戯れである。
飽きもせず繰り返される仕草に、滅多に笑わない男が笑った。

「キッド。おれの髪は猫じゃらしじゃない」
「……猫はおまえだろうが、キラー」

ほら、なァ、鳴いてみろ。
伸ばした指先で首筋を擽って、囁かれる不埒な台詞。
からかい半分、期待半分の赤い瞳は実に雄弁だ。
残念ながらそこまで付き合えるほどキラーは心広くなかったが。

くるりと背を向けることで男から逃れる。
きっと眉間には不機嫌な皺が刻まれただろう。構わない。
どうせ一度で終わる気がなかったのは、男も自分も同じなのだ。

ぐいと肩を引かれ、組み敷かれる。
見上げる体躯は恵まれていて、けれど天性のものに甘えるのでなく鍛えられている。
元来骨格の細いキラーには、羨みの対象であるそれだ。
ふと手を伸ばして腹筋を辿ると、ないはずの男の眉が楽しげに跳ねた。

「珍しいこともあるもんだ。可愛がってくれんのか?」
「趣味の悪い誘い文句だ、キッド」

そんなんじゃあいつは堕ちない。
何とはなしに呟いた台詞だが、昨日もすげなく断られたらしい男には思いのほか効いたようだ。
やる気をなくした、とでも言いたげに赤い唇を尖らせた後、ずるずるとキラーの上に倒れ込んできた。
重いと文句を口にしながら、裸の背を宥めるようにぽんぽんと叩いてやる。

「……あの厄介な保護者の野郎、てめェさっさと手籠めにしちまえ」
「なんだ、あれに追い返されたのか」
「甲板にすら上がれなかった」
「……はは、ずいぶん手強いな」
「笑う暇があんならさっさと手に入れろってんだ」

完全に駄々をこねる子供と化したキッドは、鬱憤の矛先をキラーに向けた。
拗ねて面倒なことになる前に、軌道修正してやるのもキラーの仕事のひとつである。

「順を追っているところだ。もう少し待ってくれ」
「……なんだ、いやに慎重じゃねェか」
「おまえの獲物と同じで、なかなか手強い」
「おれとおまえ揃ってか。情けねェ」
「……違いない」

苦笑混じりに返した言葉は本心だ。
船長右腕、揃ってなかなかに性質が悪い。
しかしながらそうでなければ、キッドもキラーも興味を示すことなどなかっただろう。
悪食なのもお互いさまなのだ。


「……まったく、身勝手だとは思わねェか、キラー」

のろりと顔を上げたキッドが、滅多に見せない困り顔で呟く。
目尻が下がると幼く見えるのを、いったいどれだけの人間が知っているだろうか。
返す言葉が見つからず、キラーはただ吐息を漏らした。


触れる。
唇。指先。鼓動。
手を伸ばせば届くのに。


欲しい温もりは、まだ知らない。


fin.


揃って片思い中のキドキラ。 今まで適当にしてきたせいで本命相手に手こずってたら萌える。 ※capriccio→狂想曲(伊) << Back