BETWEEN THE SHEETS Kid×Law (R-18) 整ったツラしてやがる。 すっかり寝入ってしまったローを見下ろし、キッドは頬杖をついた。 床に転がる酒瓶は数えるのも面倒なほどで、よくまあ呑み散らかしたものだと我ながら呆れる。 キッドの酒量はキラーにこそ敵わないが、そこらの野郎相手に潰されるほど半端でもない。 一晩や二晩呑み明かしたところでけろりとしていられるだけの強さは持ち合わせていた。 しかし今夜は少々度が過ぎた感はある。 それというのも、そこそこ呑める口だろうとは思っていたが、まさかローが自分と張るほどとは思わなかったからだ。 何がきっかけだったか、19番GRの酒場を半ばやけくそに借り切って呑み比べを始めたのは、まだ日も高い時分だった。 夕飯時まではそれぞれのクルーも船長に付き合っておおいに呑み食いしていたのだが、夜が更けるにつれて一人また一人と外へ出ていった。 最後まで残っていた双方の右腕も、時計の針が頂点に重なったところで「あとは好きにしろ」と一言置いて船に帰ってしまった。 残されたのは二人の億超えルーキーだけだ。 酒場の店主もいつの間にやら逃げ出してしまって、手酌すること何本目になるだろうか。 つらつらと考えるうちに手にした酒瓶が空になって、キッドは鋭く舌うちをした。 「おい……起きろ、トラファルガー」 聞こえていないのは承知で声をかける。案の定返答はない。 すぅ、と実に気持ち良さげな寝息だけが耳に届いて、キッドは無意識に息を吐いた。 いつも目深に被られた帽子は定位置からずれていて、不思議な色合いをした髪が覗いている。 やけに艶のある視線は瞼に隠され、隈のせいで見落としがちだが案外睫毛が長いのがわかった。 アルコールが回ったのだろうか、青白い頬には薄っすらと赤みがさしている。 ゆるりと手を伸ばしてその頬に触れても、ローが反応することはなかった。 「……無防備すぎんぞ、てめェ」 呟くキッドの声は酒に焼けて掠れている。 ちらりと視線で水を探したが、カウンターの奥に見えた瓶を取りに行くのはさすがに面倒で諦めた。 再びローの寝顔に視線を戻し、気に入りの帽子を指で引っかけた。 わずかな抵抗を見せて、帽子は音もなく木目のカウンターにずり落ちる。 そうして現れた癖のない短髪に、キッドは長い指を通した。 一見黒に近い色をしているが、陽に透けるとまるで深い海の色を映したように変わる。 染めているわけではなさそうだが、と、キッドは滅多に見ないその色の感触を愉しんだ。 ゆるゆると撫で、その指先を耳に光るピアスへと移したそのときだ。 「可愛いとこあるなァ、ユースタス屋」 眠っているとばかり思っていた相手の突然の台詞に、キッドはびくりと肩を跳ねた。 「てめっ、いつから起きてやがったトラファルガー!」 「おれの記憶は途切れちゃいねェが」 「狸寝入りかてめェ……!」 ああ、と悪びれもなく認めたローは、閉じていた瞼を薄っすらと開いて笑んでみせた。 その笑みに見慣れたからかいの色が浮かぶのを見て、キッドの額に青筋が走る。 「フフ、照れるな、ユースタス屋。そんな可愛い顔されてもさすがに襲いかかる元気は残ってねェぞ」 「……この変態野郎」 凶悪に口角を吊り上げると、キッドはゆったりと身体を起こしたローの胸倉を掴んで引き寄せる。 すでに予期していたのか、抵抗すらなくローは目許で笑んだ。 重ねた唇は甘ったるいカクテルの味がする。 辛口の酒が好きなキッドは口にしたことのないそれだが、ローが好んで呑むのは知っていた。 ブランデーとコアントロー、ホワイト・ラムを同じだけ、そこにレモンジュースを加えてシェイクされたそれは、実にあからさまな誘い文句だ。 ともに酒を呑むようになってから、何度かオーダーしていたのを覚えている。 そうして甘い酒ばかり口にする割に辛口のスレッジ・ハンマーを好むのは、白く濁ったそれが舌を焼いていく感覚が気に入りだからだと言っていた。 やけに卑猥な響きを含んで聞こえたのは相手がこいつだったからだろうか。 キッドは口づけながら考える。 「……甘ェ」 「いまさら、だろ」 離れたキッドの唇をローの舌が追いかける。 ゆるりと乱れた紅をその舌に舐め取られて、キッドはもう一度、変態、と罵った。 細い身体を制するのは容易い。 最も、ローに抵抗する気はなかったようだが。 カウンターの上にあった酒瓶やつまみの皿を乱暴に落とし、空いたそこへローを抱え上げた。 カウンターに尻を預けて椅子に腰かけるキッドと向かい合う形になったローは、キッドの肩から背に脚を回してご満悦だ。 好きにしろというよりは奉仕しろと命じているような態度は気に入らないが、見上げる格好もなかなか絶景だとキッドは思う。 「……スケベ野郎」 目がえろい。 そんなふざけた台詞とともに身をかがめたローの唇が瞼に落とされ、キッドはそれを合図にローの首筋へ手を伸ばした。 「……ん」 鎖骨はローの弱いところだ。 つぅ、となぞってやるだけで眉が歪む。 キッドがその表情に煽られるのを知っていて、ローには隠す気もないようだ。 「あ……ぁ、」 脇腹をなぞる手が這いあがり、身体の線を撫でては遊んでいく。 パーカーのなかで好き勝手這い回る手に背をぞくぞくとさせながら、ローはキッドの耳に噛みついた。 いつかこの耳に穴を空けてやりたいと思う。 揃いのルビーもいいが、血色のパイロープ・ガーネットも捨てがたい。 どこもかしこも好みの赤色をした男に、また赤を刻んでやれるかと思うと震えが走った。 「なに興奮してんだてめェ」 「ッア、……ん……」 べろりと喉仏を舐められると同時、昂り始めたそこへ服の上から触れられて腰を揺らす。 はぁ、と熱い息で先ほど噛みついた耳をくすぐりながら、ローは仕返しだとばかりにキッドの脚の間へ靴先を滑らせた。 「……おい」 「フフ……あれだけ呑んで、よく勃つじゃねェかユースタス屋。……若さか?」 「その口に突っ込まれてェかトラファルガー」 「は……いまさら口だけで満足できんなら」 「るせェ」 「ん……っ」 行儀の悪い脚を掴んで再び肩に担ぎあげ、キッドはジーンズを押し上げているローのペニスを服の上からやんわりと甘噛んだ。 息を呑んだローが逆立てたキッドの髪に指を通して、次の瞬間には早くとねだる。 まったく快感には素直な男だ。 さっさとそのジーンズの前を開けてやって、キッドはぴくりと眉を寄せる。 「……また穿いてねェのかてめェ」 「ん……?あァ、忘れてた」 つい、な。 そう悪びれずに笑うローが、「ついうっかり」を繰り返すのはこれでもう片手では足りない。 土地が変わればそう珍しいことでもないのだが、ローはあまりアンダーを身につけることを好まない。 万が一があったらどうするんだと常々言い聞かせてはいるのだが、男相手に万が一も何もないのだということにキッド自身気がついてはいなかった。 「は……っ、ァ、」 先端を口に含んで吸い上げると、ローの唇からあえかな喘ぎが漏れ聞こえる。 時折キッドの髪を握りしめ、耳の裏に指を這わせ、喉をひくつかせて悦楽を貪る様は娼婦も裸足で逃げ出すほどだ。 不健康に浮いた腰骨も薄くしか付かない肉も白い肌も、キッドを誘ってやまない。 太腿というには細すぎる脚を撫で上げ、喉奥まで飲み込んでペニスの裏を舌でなぞれば、早くも限界を迎えるようだ。 「あ…ッ、ぁ、ユース……ッ」 「まだ、な」 「うァ……ッ」 根元を戒め、柔らかい内腿を吸って痕を残す。 恨めしげなローの視線は、けれど涙で滲むせいで迫力はなかった。 「自分で脱げるか」 訊ねると、ふるふると首を横に振る。 当てつけか正直なところかは分からなかったが、返答を確認してキッドはローの脚をジーンズから抜いた。 同時にカウンターからローを下ろし、上半身をカウンターの上にうつ伏せる。そうしないとローの脚が崩れてしまうからだ。 パーカーを捲り上げ、あらわになった背にも唇を落とす。幾つか、まだ消えない痕があった。 腰を支え、ゆっくりと唇を下へ滑らせるとキッドの意図を察したのか、カウンターの端にしがみつくローの指先に力が籠った。 「ユースタ、ス屋……っ」 「……小せェ尻だな相変わらず」 ぐ、と割り開くように揉み、一度腰に噛みついた。 ごくりと息を呑む音が聞こえたのを合図に、その狭間に舌を這わせた。 「ひ……っ、ァ、あッ……」 がり、とローの爪がカウンターを掻く音がする。 荒い呼吸に合わせてひくつく小さな入口がキッドの舌を呑み込み、熱い内壁が締め付ける。 ぬちゃ、と粘着質な音は劣情を掻き立てるばかりで、キッドはおざなりに濡らしたそこへ早々に指を挿し入れた。 「ッぁ、ユース、っやぁ……!」 きゅう、とキッドの指を締め付けて腰を揺らすローが、辛い、と漏らした。 散々抱き慣らした身体は少々の無理は受け入れてくれるようで、どうやら達したいという意味合いらしい。 快楽は好きだが、焦らされるのにローは弱い。 それでいて焦らされた後の絶頂にはなお弱いのだから、嫌だ辛いはあてにならないものだとも思う。 「待て、って。もう少し慣らしたらいれてやる」 「ん……っ、い、ぃ、も……っ、痛くて、イ…っ」 「……堪え性がねェ野郎だな」 ねだるローの声に余裕はない。 けれど、もう少し鳴いてろ、と囁いてキッドはローの内壁に指を馴染ませた。 高く掠れた声が寂れた酒場に響き、浅くなる呼吸とかりかりと引っ切りなしにカウンターを掻く爪の音だけが耳に届く。 ようやく指を三本呑み込ませてキッドが顔を上げる頃には、どうやら本格的に泣き出したらしいローの頬は唾液と涙でぐちゃぐちゃだった。 「……そそる顔」 「ってめ、も……っ、いい加減、に」 泣き濡れてなお、言葉ばかりは勇ましい。 震えて上擦る声は誘うばかりだというのに、ローに自覚はないらしい。 背に覆い被さって首筋にひとつ唇を落とすと、キッドはようやくローの望んだものを与えてやった。 「ッァ―――……!」 挿入するのと同時、ローは白濁を吐き出した。 ようやく得られた絶頂に睫毛を震わせ、ぼろぼろと涙を零し首を反らして高く鳴く。 内壁はひくひくとキッドを締め付け、余韻に浸るそこを容赦なく擦り上げると脚を引き攣らせてローが声を上げた。 「待っ…て、ユー、スタ、あ、や、アァ…ッ」 「待てるか馬鹿」 「あ、ァ――…ッ、……っ…」 腰を押さえつけるキッドの手首をローの手が掴み、どうにか逃げ出そうともがくようだが、キッドが許すはずもない。 どこもかしこも敏感になった身体では抵抗の意味など皆無で、キッドは好きに腰を打ちつける。 「いいから。イッちまえよトラファルガー」 己の指を噛み始めていたローの口に、キッドは代わりに自分の指を含ませる。 噛まれるかと思えば、熱い舌が絡みついてきた。 余裕はないくせに、気に入りのキッドの指には噛みつけないらしい。 馬鹿だなと笑って、キッドはローの耳に舌を這わせ、奥へ奥へと穿ち始める。 声も上げられずに責め立てられ、ローは二度目の絶頂を迎えたことにも気づけないまま、眠りに落ちた。 「ぁ――……参った」 目の前に広がる惨状に、キッドは片手で額を押さえた。 ローを抱いたあたりには生々しい痕跡が残っているし、酒やらつまみやらはぶちまけたままの状態で床に散らばっている。 よく硝子片を踏まなかったものだと己を褒めてやりたい。 コートにくるんでソファに横たわらせたローの脚にも、もちろん傷ひとつない。 そろりと視線を向ける先で、ローは目許を薄っすらと赤らめたまま眠りについている。 目を覚ましたらきっと烈火のごとく怒り出すのだろう。 けれどもうひとつ、どこまでも冷え冷えと腹の中で怒りを募らせる可能性がないわけでもない。 どちらかといえば後者の方が厄介で長引くのだ。 それほど長いとはいえないが、ローと付き合ううちに見えてきた性格である。 ねちねちと厭味を言われ続けるのは勘弁願いたいし、当てつけに他の男と仲良くされても面白くはない。 せめて目を覚ましたときにはそばにいて、冷えた水のひとつでも差し出してやったなら少しは違うだろうか。 思って、キッドは先ほどは面倒で諦めた水を手に取るため、カウンターを乗り越えた。 fin.
いろいろ すみません 「キッドがローの頭を撫でて幸せ→照れ隠し裏」 リクエストありがとうございました。 お応え出来ていれば大変に幸いです…。 << Back