※学パロ BELOVED Kid×Law 「……指。長いな、ユースタス屋」 ブリックジュースのストローを噛みながら、ピアノ椅子に逆向きに腰かけてこちらを見ていたローが呟いた。 聞こえた台詞に、脚を組んでアコースティックギターを膝に乗せ、熱心に譜面を追っていたキッドが顔を上げる。 ローの視線は弦をおさえるキッドの指先に向かっていた。 「なんだ、いまさら」 「いや……よく届くもんだと思って」 「届かねェでエレキが弾けるかよ」 は、と鼻で笑って再び譜面に視線を落とす。どこまで暗譜したのだったか。 軽音部の溜まり場になっている放課後の音楽室には、その面子を恐れてか近寄ってくる生徒は少ない。 吹奏楽部の面々でさえ活動場所を中庭に移し、雨の日にはここより少し規模と設備の小さい、第二音楽室を主として使っているほどだ。 余計な音がしないこの場所はキッドの気に入りなのだが、生物部なんて名前の帰宅部に所属する目の前の男、トラファルガー・ローは音楽室への出入りを日課にしているのだった。 放課後ときどきそこらで捕まえた小動物を勝手に解剖しているほかは、大抵ジュースを片手に音楽室にやってくる。 そうして飽きもせずに練習風景を眺めてはメンバーと二言三言言葉を交わし、練習を終えればキッドとともに駅に向かって歩くのだ。 中学からの付き合いで案外歌が上手いのを知っているが、誘ったところで音楽ではローの好む血の臭いには敵わないのを知っていた。 一度なにかの打ち上げでカラオケに行ったとき、メンバーがローが部員でないのを心底惜しがっていたのが思い出される。 「アコギもなかなか様になるなユースタス屋」 「あァ?」 「髪下ろしてんのも似合うって言ってんだ」 「………馬鹿野郎」 からかう目をしたローに溜息を聞かせ、キッドは今度こそ譜面に集中した。 いつも攻撃的な音ばかり創るくせに、何を間違ったのかバラードに手を出したメンバーは案外悪くない曲を創ってきた。 アコースティックギターを抱えるのはいつ以来だろうか。アンプがないのは久しぶりだ。 少々心もとないが、せっかくの曲を台無しにするわけにはいかない。 まだ歌詞ものせていない真新しいそれは、今夏開催されるアマチュアバンドが集まるライブで披露される予定のものだ。 ローにはまだ伝えていないが、チケットは用意してやるつもりでいる。 作詞までは手が回らない、とキッドに丸投げされているそれだが、まさかお決まりのラブソングには出来ねェよなと苦く思う。 公開羞恥プレイもいいところだ。残念ながらそこまで図太くは出来ていない。 さて、どんな詞にしたものか。 国語の点数はあまり良くないんだが、と少々頭を痛めつつ、旋律を追っていく。 緩やかに動くその指を眺めていたローが、ふと椅子から立ち上がった。 キッドはそれに気づかない。 下校時刻を告げる放送はさっき聞いた。 楽譜に夢中のキッドはきっと気づいていないだろうが。 その手を取ったことに意味があるのかと問われれば、確かに意味はあった。 ローはキッドの指先が気に入りだ。 いつもはピックを使っているからまだ良いが、今日は直に弦に触れている。 綺麗に塗られた赤いマニキュアが剥がれるのは、ローにとっては耐えがたい。 おい、と咎めるキッドの声は耳に入らないふりをして、指をかぷりと甘噛んだ。 「…………コラ。悪ふざけが過ぎねェか」 邪魔すんなっつったろ、と呆れた調子のキッドの台詞は聞き流して、きりきりと歯を立てる。 この指先を愛でるのも傷つけていいのも自分だけで、他に許すわけにはいかないのだ。 「ほんとに、憎たらしいくれェ長ェ指」 「いいから離せ。おれの指はストローじゃねェぞ」 「まァ、奥まで届いてたまんねェんだけどな」 「話聞けよてめェ!」 くつりと笑いながら、つ、と中指の根元まで舌でなぞる。 キッドの指先が硬直して、その表情が引き攣るのが分かった。 まったく素直な反応に笑いが止まらなくなりそうである。 「ここをどこだと思ってやがんだトラファルガー」 「下校時間過ぎた後の音楽室だろ。なにしてたって誰も来ねェし、誰も見ねェさ」 ご希望なら見せてやってもいい。安くはないが。 優等生なお答えなど期待していない。 少しくらい動揺して、悪ノリしてくれる方がローの好みというものだ。 ついでに目の前の男が誘われてくれないはずがないのを、ローはもちろん知っている。 でなければこの自分が、こんなに嵌まり込むわけがない。 「……なァ、ユースタス屋?」 夕焼け。 放課後の音楽室。 三流のアダルトビデオには持って来いのシチュエーションだ。 笑う、薄い唇に口づけるくらいの悪戯はたぶん、許される。 fin.
title:GLAY リクエストありがとうございました! 「学パロ、キドロ、キッドさん軽音部」 どのへんが軽音部だったんだろうすみません…っ ローさん部外者でもOKとのことでしたので趣味で生物部にしたのですが気がついたらただの指フェチ変態野郎に。 タイトルがアレ過ぎるのですがきっと結局製作中の曲はラブソングになってボニーちゃんとアプーあたりに冷やかされると思います。 << Back